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たちばな庵

二次創作メインのブログです。 男女CPオンリー。 ご注意ください。

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平和な夏休み

 一学期の終業式を抜け出して駆けつけた事件現場で、平次は犯人のしかけた爆発に巻き込まれた。
 崩れてきた柱で頭を直撃し、割れたガラスの破片や木片が目に入り――幸いなことに3日がかりで行った精密検査の結果は異常なし。
 ではあるが。
 10日経った今も、目の包帯は取れていない。
「無理に外したら今後の回復に関して保障はしない」と医者に明言されていることもあり、平次は珍しく大人しくしている。
 ――服部平次、全治一ヶ月。



「平次、具合どう~?」
 和葉が平次の病室のドアを開けた。
「和葉ぁ。退屈で死にそうや~」
 中からは、聞いたことのない平次の甘えた声がする。
「何言うてんの。アンタみたいなしぶといの、殺しても死なへんわ」
 そう返して、和葉は病室へと入る。
 途端に、平次が眉をひそめた。
「……何や? 誰かおるんか?」
 なるべく気配は消していたのに、目が見えなくてもそれに気づくのはさすがと言うべきか。
「ああ、うん。剣道部の皆がお見舞いに来てくれてるよ」
 和葉はこともなげに言って振り返る。
「何してんの? 入りぃ」
「あ、ああ……」
 遠慮がちに入ってきたのは、剣道部仲間の5人。
 ――平次の甘えた声に驚いて、入りにくかったのだが……。
 ベッドに半身を起こしている平次は、目の包帯が痛々しくはあるが、顔艶も良く元気そうに見えた。
「皆がな、お見舞いにってフルーツの盛り合わせくれたんよ。すぐ食べる? オレンジとリンゴとバナナとあるけど」
「おお、すまんな。ほな、リンゴもらうわ」
「ん。皆も適当に座って? お茶淹れるわ」
 平次の病室は、特別室、とまではいかないまでも、ソファのある個室を使っていた。
 ソファにはさすがに全員座れないので、和葉がパイプ椅子を用意する。
 そして冷蔵庫を開いて麦茶を出しながら、
「あ、沖田くんがくれた羊羹もちょうど人数分あるわ。これも食べてもらうな?」
「おお、食え食え。『沖田を食う』ってな。ほんで、次こそ沖田を倒すんや!
 そもそも、羊羹なんぞ日持ちのせんもん大量に用意しおって。うちは3人家族やぞ。和葉の家族入れてもぎょうさん食えるわけないことくらいわかれっちゅーんじゃ」
「何バチあたりなこと言うてんの」
「沖田も来たんか?」
「いや、届けさせおった。しかも、地方発送せん京都の有名店や。嫌味な男やで」
「平次、いい加減にしとき? 沖田君な、『あんまり甘くないお菓子はそこのしか知らんのや。服部は見舞い客も多いやろうから、多めに入れといた』って言うてたよ。気ぃ使こてくれたんやん」
「……お前、沖田に電番教えたんか?」
「はあ? 何言うてんの? アンタが『入院中は電話番しとけ』言うて、アタシに携帯持たせてるんやんか! だからお礼をと思て、アタシがアンタの携帯からかけたの! ほっといたら、アンタどうせ、退院してもお礼1つせんやろ?」
「さよか。そらどーも」
「何やの、その気のない言い方。そもそも聞かれてもないのに教えるわけないやん」
 ……沖田もほんまは、聞きたいんちゃうんかなあ……。
 ツッコミは、もちろん心中に留めておく。
 涼しげなグラスと器に麦茶と羊羹を入れて見舞い客に配った和葉は、次にリンゴを手に取り、器用に皮をむき始めた。
 皮をむき終わったリンゴを8等分に切って芯を取り。それを更に半分に切っていくのは、平次が1口で食べられるようにとの配慮なのだろう。
「しかし、ホンマついとらんわ。夏休みがまるまるパアや」
「夏休みで良かったやないの。アンタ、出席日数ヤバい自覚ないの? 成績良うても学校行かんかったら留年するで?」
「へえへえ」
「もう、ホンマにわかってんの?
 あ、そうや。経過が順調やから、来週アタマにでも包帯取ってみよか、ってセンセイが言うてはったよ。もちろん、一気にやのうて、徐々に光に慣らしていくんやけど」
「ほんまかっ!?」
「嘘ついてどないすんの。言うとくけど、本やらテレビやらはまだまだおあずけやで? 包帯もまた巻かれるし。毎日少しずつ、包帯取っとく時間を延ばしてく、て話やわ」
「それでもええわ。長かったー。もう、瞼が痒うて痒うて」
 おどける平次に和葉はくすりと笑う。
「平次、はい。むけたで」
「ん」
 ――ここで、剣道部の面々は思わずあんぐりと口を開けてしまった。
 リンゴを入れた器は平次の手には渡らず――平次のベッドに座った和葉が平次の口に運んでいるのだ。
 平次も当たり前のように、かぱりと大きな口を開けている。
 しかも。
 シャリシャリというリンゴを食べる音が気になったのか、和葉がじっと平次を見て言う。
「美味しそうやな……アタシももらおーっと」
 そのまま、同じフォークでリンゴを自分の口に入れた。
 おいおいおい、俺らの存在忘れんなや……。
 5人が5人とも思ったところで、和葉が視線を感じたのか振り返った。
「どうしたん? ――あ、皆もリンゴ食べる? もいっこむこか?」
 ……リンゴが欲しいと思われたのだろうか……。
 無言でぶんぶんと首を振る5人に、和葉は不思議顔で首を傾げたが、すぐにまた平次にリンゴを食べさせた。
 ――その後も、5人はどこか居心地の悪さを感じていた。
 ここに居てはいけない雰囲気というか、2人の中に入っていけないというか――。
 学校で平次と和葉が2人で話していても、間に入るのは簡単なことなのに。
 怪我を負っている平次の態度が甘えているせいか、それとも病室という密室のせいなのか、それはわからないけれど。
 5人が限界を越えたのは、和葉が平次の身体の上に乗ったときだった。
 そうは言っても、陽が落ちて風が出てきたから、平次の身体の向こうにある窓に身体ごと手を伸ばしただけなのだが。
 服を着たままとはいえ、白いベッドの上で重なる男女という組み合わせは、健全な男子高校生には充分すぎるほどの刺激だ。
「は、服部! 俺らそろそろ帰るわ!」
 しめし合わせたように、5人が一斉に立ち上がる。
「ん、そうか?」
「遠山、麦茶と羊羹、ごちそうさん!」
「……俺にやないんかい」
「あ、そういや、遠山はどうするんや? 暗なってきたし、俺らで送ろか?」
 1人の不用意な言葉に、他の四人がバレないように蹴りを入れる。
 ――余計なこと言うな、アホっ! ほれ、服部のこめかみぴくってなったやんけ!
「ありがと。でもうちは大丈夫。今日は平次ん家のおばちゃんが来てくれる予定やねん。あ、平次、言うの忘れてたわ。頼まれてた着替えとCD、そん時におばちゃんが持ってきてくれるから」
 ――着替えまで頼んでんのかい!
「ほな、俺ら行くわ。服部、大事にせえや」
 身体も、和葉のことも。
「おう。おおきになー」
 平次はその意味に気づいてないだろう。
 能天気に手を挙げた。



 ――帰り道。
「なあ、あれ、2人とも無意識なんやんな……」
「意識してやってたらたまらんわ!」
「『和葉ぁ、暇で死にそうや~』って、オクターブ上がってたな……」
「沖田と電話したこともイラついとったし」
「しかし、ケータイ勝手にいじって平気ってどういうことやねん!? 普通はケータイ見たら別れる別れんのケンカになるやん!」
「しかもあのリンゴ……。遠山『あーん』とか言わんかったよな」
 うんうん。全員が頷く。
「ちゅーことは……」
「あれがあいつらには普通っちゅーことやな……」
「……2人ともトシゴロやろ……」
「あり得へん……」
 全員が頷く。
「遠山、服部の検査結果が出て本当に落ち着くまでずっと部活休んでたんやで」
「へー」
「何でお前がそんなこと知っとんねん」
「ほれ、服部のお袋さんが、うちの顧問に挨拶に来たやろ? そん時、俺、おばさんに話しかけられてん。『合気道部の先生が来てはるか知らんかなあ』って。で、『さっき職員室で見かけましたよ』って答えてんけど、『何で合気道部?』って思ってたのが顔に出てたんやろな。『和葉ちゃんがな、平次のそばから離れんのよ。夜、家に帰すのもやっとでな。本当は無理にでも部活に行かせるのが親心かもしれんけど、集中できんままやったら、部活中に大怪我するかもしれんやろ? せやから、和葉ちゃんもしばらく部活お休みさせてもらお思て』って」
「……へー」
「っちゅーか、それ、普通は遠山の親がやることちゃうか?」
「『親心』って……どっちの意味で言うてんのかなあ……」
「……あれでまだ『ただの幼馴染』言うか、あの2人は」
「ええ加減認めえっちゅーねん」
 ――結局はいつもと同じ結論に達し、彼らは家路についたのだった。

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平和的日常

 昼休み。
 平次と和葉はそれぞれの友人と食後のひと時を過ごしていた。
 と、不意に和葉がスカートのポケットに手を当てた。
「……っと、ちょっとごめん」
「何、メール?」
「うん……平次ー?」
 携帯を開いてメールを確認した和葉は、ぐるりと首をめぐらせた。
 呼ばれて平次も和葉を見る。
「何や?」
「アンタ、今日は部活、何時に終わる?」
「あー? ミーティングだけや言うてたから、遅ても1時間くらいちゃうか?」
「えー、そうなん? 今日に限ってぇ」
 不満そうに言って、頬を膨らませる和葉。
「何か用事か?」
「さっきおばちゃんからメール来てな。おばちゃん、急に出かけることになったらしくて、買い物頼まれてん。やけど、お味噌やら牛乳やら重いもんあるから、平次に付き合ってもらお、思たのに」
「何や、お前は遅いんか?」
「今日は、合気道の先生が来はる日やねん。2時間以上しごかれるのは目に見えとるわ」
「ほんなら、俺が代わりに買い物してきたるわ。牛乳と味噌と……あと何や?」
「んー、平次、今日何食べたい?」
「せやなー。うーん、酢豚はどないや?」
「……またそんなめんどくさいもんを……。まあええわ。確か、まだ竹の子残ってるはずやし。ほな、豚肉と……パプリカ……赤と黄色、1個ずつな」
 言いながら、和葉はメモを取っていく。
 その他にもぶつぶつ言いながらいくつか食材を書き、和葉は平次にメモを渡した。
「おい和葉、パプリカ2個も買うのに、ピーマン1袋て何や? 酢豚がピーマンだらけになるわ」
「そのピーマンは違うよ。こないだのハンバーグの時に残ったひき肉、いい加減使わなアカンと思て。量が半端やし、ピーマンの肉詰めにするわ」
「明日の弁当は肉詰めか」
「そーゆーこと。ほな、頼むわ。お味噌はちゃんと、いつものおっちゃんのとこで買うてよ」
 ――何で今ので「弁当のおかず」ってわかるねん!
 ――ちゅうか……服部の弁当も遠山が作ってたんや……。
 ――服部家の台所事情がこんだけわかるっちゅーのもすごいと思うぞ。
 ――そもそも、服部のオカンは何で息子やのうて遠山に買い物頼むんや?
 クラスメイトはひそひそとツッコむが、当の2人には届いてないのであった。

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Ambitious!

「ほしたら先生、さようなら」
 日直のアタシは、先生に日誌を渡して職員室を出ようとした。
「あ、遠山、ちょお待てや」
 剣道部を見ていこうか思案していたところで先生に呼び止められた。
 振り返ると、先生がおいでおいでしとる。
「何ですか?」
「お前、進路調査の用紙、まだ出してへんやろ」
「あ……」
 そうやった。
 アタシは進学するつもりでいるものの、志望校はまだ決めてない。
 やって、特にしたいこともないし……。
 中学くらいまでは、看護師とか栄養管理士とかも考えた。
 ――平次の役に立つだろうと。
 けど、そんなん、平次の側におられへんかったら意味ないし……そして今のアタシは、子分のまま平次の側にいるよりも、いっそのこと離れてしまおうと思ってる。
 自分の進路は自分で決めなアカンのやけど。
 平次抜きにして考えたとき、アタシには何も残ってないように思えて……。
 やりたいことがなければ希望の学部も決まらんくて、当然、学校が決まるわけがない。
 黙ってうつむいてしまったアタシに、先生は近くの椅子を勧めてくれた。
 そして、目を合わせてちょっと笑う。
「なあ、遠山? 自分の進路について悩むのはええことやと思う。けどな、そんな胃に穴開くほど思いつめることでもないねんぞ? 東京とか、神戸とか、住んでみたいとこないんか? みんな、志望校の動機なんてそんなもんやぞ」
「……」
 大阪を出るなんて、考えたことなかったなあ。
「ほんなら、いくつかバラバラの学部選んで受験して、受かったとこから選ぶ、ちゅーのもアリやと思うで」
「そんな適当な」
「いやいや。意外な得意分野が発見できるかもしれんでえ? ほんで、通ってみて合わへんかったら転科するなり違う学校に編入するなりすればええんや。お前の歳でやり直しのきかんことなんかあらへん」
「けど……」
「適当に進路決められるのなんて、今だけやぞ? トシとるごとに選ぶことへの責任が大きなってくる。子供の特権は使えるうちに使っとけ」
「はい」
 笑って言ったアタシに満足そうな顔を見せた先生は、ふと眉間にしわを寄せた。
「そういや、服部も進路調査まだなんや」
「そうなんですか?」
 平次は……とっくに東都大で出してると思ってたけど……。
「あいつ、スポーツ特待断ったやろ」
 アタシは黙って頷いた。
 平次は剣道で推薦の誘いがいくつも来ていた。
 けど、平次はインハイに出た年は好成績やけど、出やんだ年もあるし……なんせ、地区大会で殺人事件にかまけて不戦敗した年もあるしな。
 部活の出席率悪いし、剣道が強ても特待生扱いされるような優等生やないんやけど。
 少子化で大学が生徒獲得に苦心する中、探偵として関西では名を馳せている平次が入学すれば、それにつられて女子が受験して、男子も――つまりはそういうこと。
 それはおっちゃんやおばちゃんはもちろん、平次も気づいてることやから、「客寄せパンダにされるいわれはあらへん」て全校断った。
「その気になりゃ東都大も余裕かしらんけど、油断しとったら浪人やぞ、て言うといてくれ」
「はぁい」
 やっぱ、平次は東都大なんかな。
 今度こそ職員室を出たアタシは道場に行く気が失せて、まっすぐに家に帰――ろうとして、平次のおばちゃんに家に寄るよう言われていたことを思い出した。
 ――今は平次の顔、見たないんやけどな。
 けど、おばちゃんとの約束やから。
 アタシは平次の家に向かった。


「いらっしゃい、和葉ちゃん。あれ、平次は一緒とちゃうの?」
「平次はまだ部活とちゃうかな」
 おばちゃんはしょうがないなあ、という顔をする。
「あの子、受験生の自覚ゼロやな。もう、あんまり事件にも首突っ込まんように言うたらな」
 ぶつくさ言いながら、居間でアタシにお茶を出してくれる。
「そういえば和葉ちゃんは志望校決まったん?」
「まだなんよ。それでさっきも先生に呼び止められて」
 喉がごくり、と鳴った気がした。
「平次、も……まだ進路希望、学校に出してないんやろ? 先生がそない言うてはった」
「そうなんよー。まぁったく、何考えとんのやろ、あのアホ息子。まあ、どっちにしろ、卒業したら家から追い出すけどなー」
「誰を家から追い出すて?」
「平次!」
「おかえり。誰て、アンタのことに決まってるやん。どこの大学行くのか知らんけど、自立してもらわなな。今しの男は家事くらいできんと」
 平次は、おばちゃんの差し出したお茶を飲みながらへーへー、とか言うてる。
「ほんで私は平蔵さんと2人きりv 新婚時代に戻ったみたいやわあ。平次、アンタ、弟欲しい言うてたやろ。それ、叶えたろか?」
 ----ぶはっ!
 平次が派手に吹き出した。
「いや、ちょっと、汚いなぁ」
「何を血迷ったこと言うとんねん! トシ考えろや!」
「ま、失礼な。和葉ちゃんも、一緒に面倒見てくれるやろ?」
「あ、うん」
「お前も普通に返事すなっ! 何年前の話しとんねん。今さら弟なんかいるかい!」
「そーお?」
「そーお、ちゃうわ!」
「そういやアンタ、志望校まだ決めてないんやて? アンタのせいで、和葉ちゃんが先生に怒られたそうやないの」
 ……おばちゃん、話がだいぶ変わってる気がするんやけど……。
 けど、いきなり核心に迫った話で、アタシはそれを言葉にすることができんかった。
 そんなアタシに気づくことなく、平次はおせんべいに手を伸ばしながらこともなげに答えた。
「ああ、大阪M大に決めたわ。明日、先生に言う」
「えっ!?」
 思わず大声を出したアタシを、平次が不審そうに見る。
「何や」
「やって、東都大は!? 工藤くんのところに行くんとちゃうの?」
「あのなあ」
 平次は心底呆れた顔をする。
「なんでオレが工藤追っかけて大学決めなアカンねん。第一オレが東京に行ってもーたら、誰が大阪の平和を守るんや」
 いや、それは、お父ちゃんとか、平次んとこのおっちゃんとか、大滝ハンとかやろ。
「やけど、みんな平次は東都大やって」
「おお、なんや、勝手にそんな話になってるみたいやな。東都大狙てるやつらからえらい嫌味言われたわ」
「なんで……大阪M大なん」
「それそれ」
 平次は嬉しそうな顔をする。
「現役退いたばっかのFBIの偉いさんが数人、日本の大学で教鞭とる予定があるて聞いたんや。実際にこっち来るのはまだ先みたいやねんけどな、その学校がどこか、調べてもらっててん」
「それが、大阪M大?」
「そうや。2回か3回生になる頃にはこっちに来てるやろ。あ、この話はオフレコやぞ。乳のでっか……いや、東京のジョディ先生からの極秘情報やからな」
 て、アンタ、落ちたときのこと考えてないな。
「やから、お前も受けろ」
「は?」
「は、とちゃう、お前も大阪M大受験せえ、言うてんのや」
「な、なんで?」
「なんでとちゃうわ。さっき聞いたやろ? 進学したら1人暮らしや。誰がオレのメシ作んねん」
 め、メシ……。
「平次」
 おばちゃんが改まった声で呼んだ。
 平次もぴくりと反応しておばちゃんを見る。
「高校卒業してすぐに同棲はどうかと思うわ」
「「は?」」
 アタシと平次がハモった。
 ど、どどどど、同棲!? 誰が!? 誰と!?
「まあ、アンタが、遠山さんに半殺しにされても和葉ちゃんと一緒に暮らしたいんやーて言うなら、お母さんからもお願いしてあげやんこともないけど」
「コラ、オバハン! 何わけのわからんこと言うてんのや! 気でも違たんか!?」
「親に向かってなんて口きくの。そんなことやと、一緒に遠山さんとこ行ってあげやんよ」
「行かんでええわい!」
「ごめんな、こんな乱暴者やけど。末永くよろしゅうしたってな?」
 え、え?
 展開の早さについけてやんのやけど!
 あわあわするアタシの前で、
「そうとなったら、やっぱ弟は作ってあげられんわ。トシの近いおじさんとか言うのも、なあ?」
「やから、同棲なんかせんて!」
「あ、けど、アンタ、ちゃんと気をつけなアカンよ。和葉ちゃんかてまだ遊びたいやろし、学生のうちは甲斐性もないし、子どもはちゃんと就職してからやで。お母さん、援助なんするつもりないからな」
「ちょー待て、なんの話や!」
「遠山さんとこ行くのは、金曜の夜にしよな。アンタも痣作って学校行って、なんやかや言われたないやろ?」
 ……などなど、マイペースなおばちゃんと平次の間で噛み合わん会話が続いてる。
 えーと……。
 アタシの、平次から離れる決意は?
 ――でも。
 まだ平次の側におってもええ、ってことやんな?
 平次の誘い(命令?)を喜んでる自分がおるもんなあ。
 期待するだけ落胆も大きいって、いい加減学んだと思っとったんやけど。
 けど、今はまだ……。


□あとがき□
 平和の進路については既にいろんなサイト様で書かれていると思いますが、敢えて「大阪から出ない」Verを書いてみました。
 最初は和葉ちゃんのお母さんはいない、という設定で書いていたのですが、どうもご存命(&同居?)のようなので直しました(これも他サイト様から得た情報・笑)。
 他にも直さなきゃいけないのがいくつかあるんですよね、はははー……。

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平次君の苦悩

 バイクの免許を取って1年。
 やっと2人乗りできるようになったから、最近の週末は和葉とツーリングにでかけることが多い。
 ――その先でおうた殺人事件。
 もちろん、トリックも犯人もこのオレが解いたったけど、深夜になって帰られへんくなってもうた……和葉乗っけて無茶な運転するわけにいかんしな。
 幸い、途中でホテルを見つけてそこに宿泊することになった。
 と う ぜ ん シングルで別々の部屋やけどな!
 あー、明日も学校休みで良かったわー。……ついでに和葉ん家のオッチャンも今日は帰らん予定やって……ほんまに良かった……。
 一応、オカンには連絡入れたんやけど、なーんや妙に嬉々として「後のことは任せとき。頑張りや!」とか言うし。
 何を頑張れ言うねん!


 風呂から出てさっぱりしたオレは、早々にベッドに潜り込んだ。
 明日は早よ起きて、早々に帰らんと……何もなくても、オッチャンとおうたら気まずいしな。
 そんなことを考えていたら、部屋のドアが控えめにノックされた。
「平次……もう寝た?」
 和葉?
 慌ててドアを開けると、ホテルの浴衣を着た和葉が枕を持って廊下に立っとった。
「何や、こんな時間に。夜這いか?」
「そんなんちゃうよ! ただ……」
 部屋に招き入れると、和葉はぎゅうっと枕を抱きしめて口を尖らせた。
「やって、あんな事件に巻き込まれた直後に慣れん場所で……寝られへんねんもん」
 まあなあ。
 それは無理からぬことやな、さてどないしよう、思たオレに、和葉はとんでもないことを言いよった。
「やから平次、一緒に寝て?」
「はあっ!?」
 な、なななな何を言うねん!?
「やって、1人じゃ怖くて寝られへんねんもん。な?」
 な? てお前……。
 ホンマにテキトーに入ったホテルやから、この部屋にソファなんてないし、かと言って、椅子に座って寝て、明日バイク運転する自信もない、当然、和葉を椅子で寝させる、てこともできんしな……あーっ! こんなことなら、最初っからツインにしといたら良かったー!
 言うても後の祭り。
 今から部屋変える、なんて言うたらフロントスタッフに何を思われるかわからんし。
「わかった……」
 オレはこめかみに手を当てて、そう返事した。
 ――スケベ心ちゃうぞ! 和葉から言うてきたことやねんからな!
 何でもないフリして、さっさとベッドに入って壁際に寄り、和葉が入れるスペースを作ってやる。片肘を立てて頭を支えるオレの隣に、和葉がもそもそとベッドに入ってきた。
「なあなあ、幼稚園の頃とか、ようこうやって一緒にお昼寝したなあ」
 あー、幼稚園通っとったときも、和葉が「怖い夢見たー」言うてはこうやって布団に入ってきよったっけ。先生に「あかんよ」言われても、泣きながらオレから離れんかったなあ。
「だーれーがお姉さん代わりやって?」
 そう言うてからかうと、和葉は赤くなって
「やって、平次と一緒やったら、怖い夢見ぃひんのやもん」
 とか言う。
「あれからもう10年以上経つんやね……平次はどんどん変わるね」
 だあああっ! そんなこと言いながら、腰や背中に手を回すな!
 何やねん!? オレは試されてんのか、誘われてんのか!?
「もう、すっかり大人なんやね……」
 ――これはもう、誘われてんのやろ。
 オレは1人頷いた。
 今までお預けされとった据え膳、きっちりいただいたろーやないかい!
「か……」
「やのに、アタシはアカンなぁ……」
 ――ん? 何か、雲行きが怪しぃなってきたぞ。
「刑事の娘で探偵の幼馴染やのに、いつまでたっても事件に慣れんと……さっきも平次の横におっても何もできんで」
 ――ああ、そういうことか。
 オレは宙に浮かした手で、そのまま和葉の頭をなでたった。
「そんなん、和葉は慣れんでもええやろ」
 和葉はえ? いう顔でオレを見返した。
「お前は事件になんか慣れんでええ」
 事件が起こる要因なんか、憎悪とか嫉妬とか、そんなモンばっかや。
 お前は、他人の暗い部分なんか知らんでええ。
 ほんで、そんな暗あてドロドロしたところから帰ってくるオレやオッチャンを浄化してくれたらええんや。
「ほれ、もう寝え。明日は朝早いねんからな。事件のことなんか忘れろ忘れろ」
 言うてオレは、和葉の頭を胸に押し付けた。
「うん……」
「おっと、キックやパンチはナシやで。お行儀よう寝えよ」
「アタシは寝相悪ないよ!」
 ムッとした顔をする和葉。
 うわ、下から見上げんな! やぶ蛇やったな……。
 和葉はオレの浴衣をきゅっと握って「ありがとぉ、平次……」とつぶやくと、ゆっくり目を閉じた。
 目を閉じると同時に、深い寝息が聞こえてくる。
 ……ホンマにこいつの寝つきの良さは天下一品やな。
 そんなことを思いながら、オレも目を閉じた。
 寝られるわけなんか、あらへんけどな!

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