たちばな庵
二次創作メインのブログです。 男女CPオンリー。 ご注意ください。
尾白家のバレンタイン(2011)
- 2012/12/30 (Sun)
- キス早 |
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2月10日。
HR中、1人の女生徒が手を挙げた。
「先生。バレンタインにチョコあげたら、英語の成績、査定アップしてくれる?」
「女子ずっりー!」
「先生! 男からのチョコでもおっけーっ?」
「こらこら、静かにしなさい」
騒然とする教室を静め、一馬は質問の生徒を見た。
「そんなヨコシマなチョコはいりませんよ。
たった1つ、愛する人からのチョコがもらえればそれでいいんです」
胸に手を当て、うっとりと目を閉じる一馬に、すかさずツッコミが入る。
「先生、カノジョいるんだ?」
「いいえ、いませんよ」
一馬があっさり言うと、またどっと教室が沸いた。
「何だそれ! 先生、夢見すぎ!」
「キモーっ!」
「つーか、むしろ哀れ! かわいそーっ」
「はいはい。今日はこれで終わりでーす。明日から雪の予報ですから、風邪ひかないように気をつけてくださいねーっ」
一馬の宣言で、生徒ががたがたと席から立ち、教室を出て行く。
――真っ赤になった文乃だけが、一馬を睨みつけていた。
2月14日。
文乃はそれとなーく一馬を見張っていたが、チョコをもらっている様子はなかった。
――こそこそと一馬を尾行していたら、自分が岡から「友チョコ」をもらってしまったが。
「ブンちゃ!」
放課後、保育園に鉄兵を迎えに行くと、龍が園児(女子のみ)と保護者(ママさんのみ)に囲まれていた。
「龍せんせい、すごい人気だね」
「きょうのおやつはチョコレートだったんだよ! でね、これあげる」
鉄兵が出した掌には、チロルチョコが2つ、載っていた。
「え、いいよ。鉄兵のおやつじゃん」
「でも、きょうはだいすきなひとにチョコレートをあげるひなんでしょ? ぼく、ブンちゃもまーくんもだいすきだもん。だから、はい」
「鉄兵~」
文乃はぎゅっと鉄兵を抱きしめた。
「ありがとね。それ、後で、先生と一緒にちょうだい。先生、きっと喜ぶよ」
「うんっ。あとね、これ、えみりちゃんにもらった」
そう言ってバッグから取り出したのは、ラッピングされた小ぶりの箱。
「おおっ。鉄兵、やるじゃん」
「でもね、『ぎりだからかんちがいしないでよね』っていわれた。『ぎり』ってなんだろ」
「へ、へー」
――照れ隠しに「義理チョコ」って言うなんて……恐るべし、4歳児女子。
「『これからも仲良くしてね』ってくれたんだよ。来月、お返ししなきゃね」
「うんっ」
夕方過ぎになって、一馬が帰ってきた。
――今日用意されていたコスプレは、バレンタイン☆スペシャル と称して露出の多いフリルの超ミニワンピだ。
「んー、可愛いですねえ。眼福眼福」
語尾にハートマークがつきそうなテンションだ。
ニコニコ言われれば悪い気はしない……が。
「先生さ、胸フェチかと思ったら脚とかヘソとかも出させたがるよね。結局、どこが好きなの?」
「ん? 強いて言うなら『文乃さんフェチ』かな?」
「な……っ」
「ほら、早くご飯食べて、チョコ作りましょう?」
――一馬にチョコは渡したい、けれど一馬のお金でこだわりのチョコを買っても……と悶々と悩んでいたところに言われた「手作りして欲しい」の一言。
自他共に認める料理オンチの文乃が作っても食べられるものができるとは思えず、「一緒に作ろう」ということになった。
と言っても、ホットケーキミックスに溶かしたチョコを入れただけのもの。
文乃は混ぜる係だ。
「愛情たーっぷり入れてかき混ぜてくださいね。でも混ぜすぎちゃダメですよー」
「そんな難しいこと言われてもっ」
「おや。それは、愛情が多すぎて混ざりきらないってことですか? ――ああ、飛んでますよ」
「ちょ……っ!」
文乃が勢いよく泡立て器をふりすぎたせいで、生地が顔についてしまっていた。
一馬はそれをぺろりと舐め取る。
「さ、そろそろ焼きましょうか。鉄兵くんも、型抜き手伝ってね」
「はーい」
一馬は、できた生地を次々に焼いていく。
「文乃さん、腰くだけてないで、起きて起きて。ハートは文乃さんが抜くんですよ。鉄兵くんは、他の型、どれを使ってもいいからね」
「先生、何でクッキーの型抜きなんて持ってんの!?」
「やだな、今日のために買ったに決まってるじゃないですか。ほら、早く。次が焼けましたよ」
「~~~~~もうっ」
文乃と鉄兵は、焼きあがったホットケーキを型抜きしていく。
すぐに大皿にこんもりと積みあがった。
「よーし、じゃあ食べましょう~」
「わーい」
「あれ、文乃さん、何してるんですか? 文乃さんの席はここでしょう?」
「え?」
一馬はそう言って、あぐらをかいた膝の上に文乃を乗せた。
「はい、あーん」
「え、え!?」
「何やってるんですか。そのハート、早く食べさせてください。あーん」
「~~~~~~っ」
文乃は真っ赤になりながら、ホットケーキを一馬の口に運ぶ。
「妻の愛情たっぷりのホットケーキは美味しいですねえ。はい、文乃さんもあーん」
文乃は目をぎゅっとつぶって口を開ける。
口の中にホットケーキが入ると同時に、一馬の手が頬に添えられる。
「おいしい?」
「う……うん」
「まーくん。これ、ぼくから」
鉄兵が保育園でもらったチロルチョコを出した。
「おおっ! くれるの!? ありがとう! 鉄兵くんも、あーん」
「あーんっ」
ちょっと恥ずかしいけど、幸せな家族の時間。
――その空気を一変させたのは、文乃の一言だった。
「これ、龍せんせいにも持っていこうよ」
一馬の顔が固まった。
「何で?」
「何でって……、たくさんあるし、いつもお世話になってるから」
「いいよ、そんなの」
「でも」
「妻の手作りチョコを、他人に食べさせるつもりはありません」
一馬は文乃をぎゅっと抱きしめる。
「他人って、龍せんせいだよ?」
「ダメったらダメです。これは、僕が全部食べます」
「お腹壊しちゃうよ!?」
「その方がマシです」
文乃は呆れたように一馬を見た。
「……先生ってヤキモチ焼きだよね」
「文乃さんには負けますよ。――今日、ずっと僕のこと見張っていたでしょう」
「……っ!」
尾行がバレているなんて思っていなかった文乃はギクリと硬直する。
「言ったでしょう? 妻以外のチョコなんて、いりませんよ」
――ちゅっ。
「ギエエエエエーっ!」
耳にキスをされて、尾白家のバレンタインは嫁の奇声で幕を閉じたのだった。
HR中、1人の女生徒が手を挙げた。
「先生。バレンタインにチョコあげたら、英語の成績、査定アップしてくれる?」
「女子ずっりー!」
「先生! 男からのチョコでもおっけーっ?」
「こらこら、静かにしなさい」
騒然とする教室を静め、一馬は質問の生徒を見た。
「そんなヨコシマなチョコはいりませんよ。
たった1つ、愛する人からのチョコがもらえればそれでいいんです」
胸に手を当て、うっとりと目を閉じる一馬に、すかさずツッコミが入る。
「先生、カノジョいるんだ?」
「いいえ、いませんよ」
一馬があっさり言うと、またどっと教室が沸いた。
「何だそれ! 先生、夢見すぎ!」
「キモーっ!」
「つーか、むしろ哀れ! かわいそーっ」
「はいはい。今日はこれで終わりでーす。明日から雪の予報ですから、風邪ひかないように気をつけてくださいねーっ」
一馬の宣言で、生徒ががたがたと席から立ち、教室を出て行く。
――真っ赤になった文乃だけが、一馬を睨みつけていた。
2月14日。
文乃はそれとなーく一馬を見張っていたが、チョコをもらっている様子はなかった。
――こそこそと一馬を尾行していたら、自分が岡から「友チョコ」をもらってしまったが。
「ブンちゃ!」
放課後、保育園に鉄兵を迎えに行くと、龍が園児(女子のみ)と保護者(ママさんのみ)に囲まれていた。
「龍せんせい、すごい人気だね」
「きょうのおやつはチョコレートだったんだよ! でね、これあげる」
鉄兵が出した掌には、チロルチョコが2つ、載っていた。
「え、いいよ。鉄兵のおやつじゃん」
「でも、きょうはだいすきなひとにチョコレートをあげるひなんでしょ? ぼく、ブンちゃもまーくんもだいすきだもん。だから、はい」
「鉄兵~」
文乃はぎゅっと鉄兵を抱きしめた。
「ありがとね。それ、後で、先生と一緒にちょうだい。先生、きっと喜ぶよ」
「うんっ。あとね、これ、えみりちゃんにもらった」
そう言ってバッグから取り出したのは、ラッピングされた小ぶりの箱。
「おおっ。鉄兵、やるじゃん」
「でもね、『ぎりだからかんちがいしないでよね』っていわれた。『ぎり』ってなんだろ」
「へ、へー」
――照れ隠しに「義理チョコ」って言うなんて……恐るべし、4歳児女子。
「『これからも仲良くしてね』ってくれたんだよ。来月、お返ししなきゃね」
「うんっ」
夕方過ぎになって、一馬が帰ってきた。
――今日用意されていたコスプレは、バレンタイン☆スペシャル と称して露出の多いフリルの超ミニワンピだ。
「んー、可愛いですねえ。眼福眼福」
語尾にハートマークがつきそうなテンションだ。
ニコニコ言われれば悪い気はしない……が。
「先生さ、胸フェチかと思ったら脚とかヘソとかも出させたがるよね。結局、どこが好きなの?」
「ん? 強いて言うなら『文乃さんフェチ』かな?」
「な……っ」
「ほら、早くご飯食べて、チョコ作りましょう?」
――一馬にチョコは渡したい、けれど一馬のお金でこだわりのチョコを買っても……と悶々と悩んでいたところに言われた「手作りして欲しい」の一言。
自他共に認める料理オンチの文乃が作っても食べられるものができるとは思えず、「一緒に作ろう」ということになった。
と言っても、ホットケーキミックスに溶かしたチョコを入れただけのもの。
文乃は混ぜる係だ。
「愛情たーっぷり入れてかき混ぜてくださいね。でも混ぜすぎちゃダメですよー」
「そんな難しいこと言われてもっ」
「おや。それは、愛情が多すぎて混ざりきらないってことですか? ――ああ、飛んでますよ」
「ちょ……っ!」
文乃が勢いよく泡立て器をふりすぎたせいで、生地が顔についてしまっていた。
一馬はそれをぺろりと舐め取る。
「さ、そろそろ焼きましょうか。鉄兵くんも、型抜き手伝ってね」
「はーい」
一馬は、できた生地を次々に焼いていく。
「文乃さん、腰くだけてないで、起きて起きて。ハートは文乃さんが抜くんですよ。鉄兵くんは、他の型、どれを使ってもいいからね」
「先生、何でクッキーの型抜きなんて持ってんの!?」
「やだな、今日のために買ったに決まってるじゃないですか。ほら、早く。次が焼けましたよ」
「~~~~~もうっ」
文乃と鉄兵は、焼きあがったホットケーキを型抜きしていく。
すぐに大皿にこんもりと積みあがった。
「よーし、じゃあ食べましょう~」
「わーい」
「あれ、文乃さん、何してるんですか? 文乃さんの席はここでしょう?」
「え?」
一馬はそう言って、あぐらをかいた膝の上に文乃を乗せた。
「はい、あーん」
「え、え!?」
「何やってるんですか。そのハート、早く食べさせてください。あーん」
「~~~~~~っ」
文乃は真っ赤になりながら、ホットケーキを一馬の口に運ぶ。
「妻の愛情たっぷりのホットケーキは美味しいですねえ。はい、文乃さんもあーん」
文乃は目をぎゅっとつぶって口を開ける。
口の中にホットケーキが入ると同時に、一馬の手が頬に添えられる。
「おいしい?」
「う……うん」
「まーくん。これ、ぼくから」
鉄兵が保育園でもらったチロルチョコを出した。
「おおっ! くれるの!? ありがとう! 鉄兵くんも、あーん」
「あーんっ」
ちょっと恥ずかしいけど、幸せな家族の時間。
――その空気を一変させたのは、文乃の一言だった。
「これ、龍せんせいにも持っていこうよ」
一馬の顔が固まった。
「何で?」
「何でって……、たくさんあるし、いつもお世話になってるから」
「いいよ、そんなの」
「でも」
「妻の手作りチョコを、他人に食べさせるつもりはありません」
一馬は文乃をぎゅっと抱きしめる。
「他人って、龍せんせいだよ?」
「ダメったらダメです。これは、僕が全部食べます」
「お腹壊しちゃうよ!?」
「その方がマシです」
文乃は呆れたように一馬を見た。
「……先生ってヤキモチ焼きだよね」
「文乃さんには負けますよ。――今日、ずっと僕のこと見張っていたでしょう」
「……っ!」
尾行がバレているなんて思っていなかった文乃はギクリと硬直する。
「言ったでしょう? 妻以外のチョコなんて、いりませんよ」
――ちゅっ。
「ギエエエエエーっ!」
耳にキスをされて、尾白家のバレンタインは嫁の奇声で幕を閉じたのだった。
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