忍者ブログ

たちばな庵

二次創作メインのブログです。 男女CPオンリー。 ご注意ください。

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

鉄兵の夜泣き

「ブンちゃ、ブンちゃぁ~~~っ」
「どうしたの。あたしはここにいるよ、鉄兵」
 
 ――お願い、泣き止んで。
 私は鉄兵を強く抱きしめた。
 いや、胸に押し付けた、というのが正しいかもしれない。
 ――隣の部屋の先生に、鉄兵の泣き声が聞こえないように。

「鉄兵。抱っこしたげる」
 私は鉄兵を抱き上げた。
 勢いづけて揺するけれど、鉄兵ももう4歳。
 腕力に多少の自信があっても、正直キツい。
 私の腕と腰は、すぐに悲鳴を上げた。

 鉄兵は、揺さぶりが止まるとすぐにグズる。
 ダメだ。
 私は諦めて、外に出ることにした。

 真冬の寒空。
 夜中に鉄兵を外出させるなんて、かなり抵抗と不安を感じるけど仕方がない。

 私はパジャマを着替えて、鉄兵にはありったけの上着を着せる。
 と、カラリ、と襖が開いて、先生が顔を出した。

「鉄兵くん、ずいぶんグズってますね――文乃さん、何してるんですか?」
 先生がすっと真顔になる。
「ごっ、ごめん! 鉄兵、昼間に怖いことがあったから、ちょっと夜泣きがひどくって。
 いつもは寝つきいいし、ほんと、こんなこと滅多にないんだけど。うるさくしてごめんなさい」
 私は慌てて部屋から出ようとして――先生に腕をつかまれた。
「こんな時間にどこ行くんですか」
「鉄兵が落ち着くまで、外に行ってるから。先生、授業の準備してたんでしょう? 邪魔してごめんね」
 鉄兵を促すと、鉄兵は泣きながら「だっこ」と先生の方に手を伸ばす。
「鉄兵、先生の邪魔しないんだよ」
 さらに鉄兵の腕を引っ張ると、先生がひょい、と鉄兵を抱き上げた。
「外、何℃だと思ってるんですか。文乃さん、自分が何してるか、わかってますか?」

 私ができなくて困ってることをあっさりされた上、責めるように言われて、私はカッと頭に血が上った。
「じゃあ、どうしろっての!? あたしだって、こんな夜中に鉄兵を外出させたくないよ! けど、あたしの力じゃもう無理なの! 鉄兵はまだ4歳なんだから、夜泣きしたってしょうがないじゃんっ」
 一息に言って先生を睨みつけると、先生は私を真っ直ぐ見返した。
「何で、僕に言わないの?」

 ――一瞬、何を言われたのか、わからなかった。

「文乃さんには無理でも、僕には簡単にできるのに。何で僕に言わないの?」
「だって。迷惑……」
「迷惑なわけないでしょう! 僕らは『家族』になったんですよ。できないことを補い合わなくてどうするんですか」
「だ……って」
 ボロボロと涙が溢れて、言葉にならなかった。

 だって。
 ――両親が亡くなった後、鉄兵は夜泣きが続いた。急激な環境の変化と、周りの感情を敏感に察知していたからだと思う。
 厄介になっていた親戚の家では「うるさい」「イライラする」「泣き止ませろ」。そう言われてきた。
 だから、布団の中でずっと抱きしめて泣き声が外にもれないようにするか、外に出て鉄兵が泣き止むまであやすか――このどちらかしかなかった。
 それ以外の方法なんて……っ。

 先生がやさしい声で聞いてくる。
「昼間にあった『怖いこと』って?」
「……ほ……いくえんのっ、帰り道……っ、しん、ごう……無視の車……がっ」
 泣きながらつっかえつっかえ言うと、先生の目が見開かれた。
「突っ込んできたの!? ケガは? 病院行った? 何でもっと早く言わないの!?」
「――ほっ、他の車とぶつかりそうになって、勢いで電柱に突っ込んだの! 交差点の反対側だったから、あたしたちは見ただけっ」
 とんでもない誤解に私もびっくりして、涙が引っ込んだ。
「び……っくりしたあ~」
 先生が大きく息を吐いた。

 私は昼間のシーンを思い出して、ぎゅっと目をつぶった。
 ――耳をつんざくブレーキ音と、車が電柱にぶつかる衝撃音。
 車はボンネットがひしゃげて、フロントガラスが粉々で――。
 
 先生の大きな手が、私の頭にぽん、と置かれた。
「……ごめん、思い出させて」
 私がふるふると首を振ると、先生は私を覗き込んでふわりと笑った。
「文乃さん、笑って。鉄兵くんを安心させてあげてください?」

 ――ああ、そうか。

 私は笑顔を作って、鉄兵の頭を撫でた。
「バカね、鉄兵。あたしは何ともないよ」
 先生と一緒に、鉄兵を抱きしめる。
 鉄兵が、ぎゅっと私にしがみついた。
「ほら、元気でしょ? 大丈夫だから。ね?」
「……うん」
 鉄兵はやっと納得したのか、にこっと笑うと同時に寝息をたてた。
 
 鉄兵をそっと布団に入れて、ほっぺに残る涙の跡をぬぐった。
「お姉ちゃん失格だなあ……」

 ――交通事故を見た時、心配したのは鉄兵の夜泣きだった。
 鉄兵はいつも「良い子」だから、親戚の家にも受け入れられやすかった。
 けれど、おねしょすると露骨に嫌な顔をされたし、グズったりすると途端に「だから子どもは」と態度が変わることもあって。
 無意識のうちに、鉄兵の様子を伺ってた。
 最初にすべきなのは、鉄兵を安心させてあげることだったのに――。

「なーに言ってるんですか」
 先生は、私のおでこをつん、とつつく。
「君はよくやってる。君の愛情は、鉄兵くんにもちゃんと伝わってますよ。――でも」
 先生は私を抱きしめた。
「これからは、その役目を僕にも分けてください。
 僕は、君とだけ家族になったんじゃない。鉄兵くんも大事な僕の家族の一員なんですから」
「……うん」
 私も、先生にきゅっとしがみつく。

 私は何て幸せ者なんだろう――。

 感動したのも束の間、先生は私の首に顔をうずめて、にっこり笑った。

「わかってくれて良かったです。では、忘れないよう、痕をつけておきましょうね」
「さ……さいってー!!」


□あとがき□
 多分、先生に拾われてすぐのできごとでしょう。

 ……ていうか、誰か、タイトルをつけるセンスを下さい……orz

拍手[4回]

PR

この記事へのコメント

Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
管理人のみ閲覧できます
 

カレンダー

10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

フリーエリア

プロフィール

HN:
はるき
性別:
非公開
Copyright ©  -- たちばな庵 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / Photo by momo111 / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]