たちばな庵
二次創作メインのブログです。 男女CPオンリー。 ご注意ください。
鉄兵の夜泣き
- 2012/12/30 (Sun)
- キス早 |
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「ブンちゃ、ブンちゃぁ~~~っ」
「どうしたの。あたしはここにいるよ、鉄兵」
――お願い、泣き止んで。
私は鉄兵を強く抱きしめた。
いや、胸に押し付けた、というのが正しいかもしれない。
――隣の部屋の先生に、鉄兵の泣き声が聞こえないように。
「鉄兵。抱っこしたげる」
私は鉄兵を抱き上げた。
勢いづけて揺するけれど、鉄兵ももう4歳。
腕力に多少の自信があっても、正直キツい。
私の腕と腰は、すぐに悲鳴を上げた。
鉄兵は、揺さぶりが止まるとすぐにグズる。
ダメだ。
私は諦めて、外に出ることにした。
真冬の寒空。
夜中に鉄兵を外出させるなんて、かなり抵抗と不安を感じるけど仕方がない。
私はパジャマを着替えて、鉄兵にはありったけの上着を着せる。
と、カラリ、と襖が開いて、先生が顔を出した。
「鉄兵くん、ずいぶんグズってますね――文乃さん、何してるんですか?」
先生がすっと真顔になる。
「ごっ、ごめん! 鉄兵、昼間に怖いことがあったから、ちょっと夜泣きがひどくって。
いつもは寝つきいいし、ほんと、こんなこと滅多にないんだけど。うるさくしてごめんなさい」
私は慌てて部屋から出ようとして――先生に腕をつかまれた。
「こんな時間にどこ行くんですか」
「鉄兵が落ち着くまで、外に行ってるから。先生、授業の準備してたんでしょう? 邪魔してごめんね」
鉄兵を促すと、鉄兵は泣きながら「だっこ」と先生の方に手を伸ばす。
「鉄兵、先生の邪魔しないんだよ」
さらに鉄兵の腕を引っ張ると、先生がひょい、と鉄兵を抱き上げた。
「外、何℃だと思ってるんですか。文乃さん、自分が何してるか、わかってますか?」
私ができなくて困ってることをあっさりされた上、責めるように言われて、私はカッと頭に血が上った。
「じゃあ、どうしろっての!? あたしだって、こんな夜中に鉄兵を外出させたくないよ! けど、あたしの力じゃもう無理なの! 鉄兵はまだ4歳なんだから、夜泣きしたってしょうがないじゃんっ」
一息に言って先生を睨みつけると、先生は私を真っ直ぐ見返した。
「何で、僕に言わないの?」
――一瞬、何を言われたのか、わからなかった。
「文乃さんには無理でも、僕には簡単にできるのに。何で僕に言わないの?」
「だって。迷惑……」
「迷惑なわけないでしょう! 僕らは『家族』になったんですよ。できないことを補い合わなくてどうするんですか」
「だ……って」
ボロボロと涙が溢れて、言葉にならなかった。
だって。
――両親が亡くなった後、鉄兵は夜泣きが続いた。急激な環境の変化と、周りの感情を敏感に察知していたからだと思う。
厄介になっていた親戚の家では「うるさい」「イライラする」「泣き止ませろ」。そう言われてきた。
だから、布団の中でずっと抱きしめて泣き声が外にもれないようにするか、外に出て鉄兵が泣き止むまであやすか――このどちらかしかなかった。
それ以外の方法なんて……っ。
先生がやさしい声で聞いてくる。
「昼間にあった『怖いこと』って?」
「……ほ……いくえんのっ、帰り道……っ、しん、ごう……無視の車……がっ」
泣きながらつっかえつっかえ言うと、先生の目が見開かれた。
「突っ込んできたの!? ケガは? 病院行った? 何でもっと早く言わないの!?」
「――ほっ、他の車とぶつかりそうになって、勢いで電柱に突っ込んだの! 交差点の反対側だったから、あたしたちは見ただけっ」
とんでもない誤解に私もびっくりして、涙が引っ込んだ。
「び……っくりしたあ~」
先生が大きく息を吐いた。
私は昼間のシーンを思い出して、ぎゅっと目をつぶった。
――耳をつんざくブレーキ音と、車が電柱にぶつかる衝撃音。
車はボンネットがひしゃげて、フロントガラスが粉々で――。
先生の大きな手が、私の頭にぽん、と置かれた。
「……ごめん、思い出させて」
私がふるふると首を振ると、先生は私を覗き込んでふわりと笑った。
「文乃さん、笑って。鉄兵くんを安心させてあげてください?」
――ああ、そうか。
私は笑顔を作って、鉄兵の頭を撫でた。
「バカね、鉄兵。あたしは何ともないよ」
先生と一緒に、鉄兵を抱きしめる。
鉄兵が、ぎゅっと私にしがみついた。
「ほら、元気でしょ? 大丈夫だから。ね?」
「……うん」
鉄兵はやっと納得したのか、にこっと笑うと同時に寝息をたてた。
鉄兵をそっと布団に入れて、ほっぺに残る涙の跡をぬぐった。
「お姉ちゃん失格だなあ……」
――交通事故を見た時、心配したのは鉄兵の夜泣きだった。
鉄兵はいつも「良い子」だから、親戚の家にも受け入れられやすかった。
けれど、おねしょすると露骨に嫌な顔をされたし、グズったりすると途端に「だから子どもは」と態度が変わることもあって。
無意識のうちに、鉄兵の様子を伺ってた。
最初にすべきなのは、鉄兵を安心させてあげることだったのに――。
「なーに言ってるんですか」
先生は、私のおでこをつん、とつつく。
「君はよくやってる。君の愛情は、鉄兵くんにもちゃんと伝わってますよ。――でも」
先生は私を抱きしめた。
「これからは、その役目を僕にも分けてください。
僕は、君とだけ家族になったんじゃない。鉄兵くんも大事な僕の家族の一員なんですから」
「……うん」
私も、先生にきゅっとしがみつく。
私は何て幸せ者なんだろう――。
感動したのも束の間、先生は私の首に顔をうずめて、にっこり笑った。
「わかってくれて良かったです。では、忘れないよう、痕をつけておきましょうね」
「さ……さいってー!!」
□あとがき□
多分、先生に拾われてすぐのできごとでしょう。
……ていうか、誰か、タイトルをつけるセンスを下さい……orz
「どうしたの。あたしはここにいるよ、鉄兵」
――お願い、泣き止んで。
私は鉄兵を強く抱きしめた。
いや、胸に押し付けた、というのが正しいかもしれない。
――隣の部屋の先生に、鉄兵の泣き声が聞こえないように。
「鉄兵。抱っこしたげる」
私は鉄兵を抱き上げた。
勢いづけて揺するけれど、鉄兵ももう4歳。
腕力に多少の自信があっても、正直キツい。
私の腕と腰は、すぐに悲鳴を上げた。
鉄兵は、揺さぶりが止まるとすぐにグズる。
ダメだ。
私は諦めて、外に出ることにした。
真冬の寒空。
夜中に鉄兵を外出させるなんて、かなり抵抗と不安を感じるけど仕方がない。
私はパジャマを着替えて、鉄兵にはありったけの上着を着せる。
と、カラリ、と襖が開いて、先生が顔を出した。
「鉄兵くん、ずいぶんグズってますね――文乃さん、何してるんですか?」
先生がすっと真顔になる。
「ごっ、ごめん! 鉄兵、昼間に怖いことがあったから、ちょっと夜泣きがひどくって。
いつもは寝つきいいし、ほんと、こんなこと滅多にないんだけど。うるさくしてごめんなさい」
私は慌てて部屋から出ようとして――先生に腕をつかまれた。
「こんな時間にどこ行くんですか」
「鉄兵が落ち着くまで、外に行ってるから。先生、授業の準備してたんでしょう? 邪魔してごめんね」
鉄兵を促すと、鉄兵は泣きながら「だっこ」と先生の方に手を伸ばす。
「鉄兵、先生の邪魔しないんだよ」
さらに鉄兵の腕を引っ張ると、先生がひょい、と鉄兵を抱き上げた。
「外、何℃だと思ってるんですか。文乃さん、自分が何してるか、わかってますか?」
私ができなくて困ってることをあっさりされた上、責めるように言われて、私はカッと頭に血が上った。
「じゃあ、どうしろっての!? あたしだって、こんな夜中に鉄兵を外出させたくないよ! けど、あたしの力じゃもう無理なの! 鉄兵はまだ4歳なんだから、夜泣きしたってしょうがないじゃんっ」
一息に言って先生を睨みつけると、先生は私を真っ直ぐ見返した。
「何で、僕に言わないの?」
――一瞬、何を言われたのか、わからなかった。
「文乃さんには無理でも、僕には簡単にできるのに。何で僕に言わないの?」
「だって。迷惑……」
「迷惑なわけないでしょう! 僕らは『家族』になったんですよ。できないことを補い合わなくてどうするんですか」
「だ……って」
ボロボロと涙が溢れて、言葉にならなかった。
だって。
――両親が亡くなった後、鉄兵は夜泣きが続いた。急激な環境の変化と、周りの感情を敏感に察知していたからだと思う。
厄介になっていた親戚の家では「うるさい」「イライラする」「泣き止ませろ」。そう言われてきた。
だから、布団の中でずっと抱きしめて泣き声が外にもれないようにするか、外に出て鉄兵が泣き止むまであやすか――このどちらかしかなかった。
それ以外の方法なんて……っ。
先生がやさしい声で聞いてくる。
「昼間にあった『怖いこと』って?」
「……ほ……いくえんのっ、帰り道……っ、しん、ごう……無視の車……がっ」
泣きながらつっかえつっかえ言うと、先生の目が見開かれた。
「突っ込んできたの!? ケガは? 病院行った? 何でもっと早く言わないの!?」
「――ほっ、他の車とぶつかりそうになって、勢いで電柱に突っ込んだの! 交差点の反対側だったから、あたしたちは見ただけっ」
とんでもない誤解に私もびっくりして、涙が引っ込んだ。
「び……っくりしたあ~」
先生が大きく息を吐いた。
私は昼間のシーンを思い出して、ぎゅっと目をつぶった。
――耳をつんざくブレーキ音と、車が電柱にぶつかる衝撃音。
車はボンネットがひしゃげて、フロントガラスが粉々で――。
先生の大きな手が、私の頭にぽん、と置かれた。
「……ごめん、思い出させて」
私がふるふると首を振ると、先生は私を覗き込んでふわりと笑った。
「文乃さん、笑って。鉄兵くんを安心させてあげてください?」
――ああ、そうか。
私は笑顔を作って、鉄兵の頭を撫でた。
「バカね、鉄兵。あたしは何ともないよ」
先生と一緒に、鉄兵を抱きしめる。
鉄兵が、ぎゅっと私にしがみついた。
「ほら、元気でしょ? 大丈夫だから。ね?」
「……うん」
鉄兵はやっと納得したのか、にこっと笑うと同時に寝息をたてた。
鉄兵をそっと布団に入れて、ほっぺに残る涙の跡をぬぐった。
「お姉ちゃん失格だなあ……」
――交通事故を見た時、心配したのは鉄兵の夜泣きだった。
鉄兵はいつも「良い子」だから、親戚の家にも受け入れられやすかった。
けれど、おねしょすると露骨に嫌な顔をされたし、グズったりすると途端に「だから子どもは」と態度が変わることもあって。
無意識のうちに、鉄兵の様子を伺ってた。
最初にすべきなのは、鉄兵を安心させてあげることだったのに――。
「なーに言ってるんですか」
先生は、私のおでこをつん、とつつく。
「君はよくやってる。君の愛情は、鉄兵くんにもちゃんと伝わってますよ。――でも」
先生は私を抱きしめた。
「これからは、その役目を僕にも分けてください。
僕は、君とだけ家族になったんじゃない。鉄兵くんも大事な僕の家族の一員なんですから」
「……うん」
私も、先生にきゅっとしがみつく。
私は何て幸せ者なんだろう――。
感動したのも束の間、先生は私の首に顔をうずめて、にっこり笑った。
「わかってくれて良かったです。では、忘れないよう、痕をつけておきましょうね」
「さ……さいってー!!」
□あとがき□
多分、先生に拾われてすぐのできごとでしょう。
……ていうか、誰か、タイトルをつけるセンスを下さい……orz
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