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たちばな庵

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【お題】ワガママ姫さまの5つの命令

5.まだまだ全然足りないの


 想は信じられない思いで目の前に座る少女を見つめた。
 少女は美味しそうにリゾットを頬張っている。
 それは、よくある微笑ましい光景だろう。
 しかし。
 彼女の傍らには、食べ終えて重ねた皿がうず高く重ねられているのだ。


 3月13日の放課後。
隣を歩いていた可奈が突然立ち止まった。
「……燈馬君、私に何か言うことないの?」
「はい?」
 午後から笑顔がないな、と思ってはいたのだが、何か怒らせるようなことをしただろうか。
 必死で考えるが、思い当たらない。
「明日は何の日!?」
「明日、ですか? 3月14日……1953年に吉田内閣解散、俗に言う『バカヤロー解散』……違いますよね。あ、ジョヴァンニ・スキアパレッリの生まれた日」
「誰それ」
「天文学者です。と、言うことは、それも違うんですね」
 わけがわからない想に、可奈はますますムクれていく。
「そんな人知らないよ! 違うでしょ、明日はホワイトデーでしょう!?」
「ホワイトデー、って何ですか?」
 想は、可奈の顎が外れやしないかと心配した。
 それくらい、あんぐりと口を開けたのだ。
「……信じらんない。何でバレンタインデーを知っててホワイトデーを知らないのよ。
 ホワイトデーは、バレンタインデーのお返しをする日なの」
「そうなんですか。そんな日が」
 想は驚いた。
 日本でバレンタインデーといえば女性から男性にチョコを贈る日と聞いていたが、そのお返しの日が用意されていたとは。
 欧米では、男女関係なしにバレンタインデー当日に贈り物をし合うのだが。
「それはすみませんでした。ええっと、お返しはどうしたらいいんですか?」
 素直に謝ったら、少しは機嫌が直ったのだろうか、可奈の表情が変わった。
「チョコをもらった男の子は、女の子の好きなものを好きなだけ、何でもご馳走するんだよ」
「『何でも』ですか」
「やだ、そんな高いもの言ったりしないから心配しないで。ブッフェで手を打ったげる」
「わかりました。それが明日なんですね? 何時にしますか?」
「11時に、マンションに行くよ」
「わかりました」


 そして、ホワイトデー当日。
 ホテルのランチブッフェで、制限の2時間、ほぼ全種類の料理を平らげた可奈は満足そうに手を合わせた。
「ご馳走様でした。美味しかった!」
「それは良かったです。さて、これからどうしましょうか。どこか行きたいところ、ありますか?」
 会計を済ませ、レストランを出ながら想が言うと、可奈がキョトンとした。
「今から、デザートブッフェだよ」
「まだ食べるんですか!?」
「何よ、失礼ね。女の子にとって甘いものは別腹なの! さ、カフェコーナーへ行くよ」


 想は信じられない思いで目の前に座る少女を見つめた。
 少女は美味しそうにケーキを頬張っている。
 それは、よくある微笑ましい光景だろう。
 しかし。
 彼女の傍らには、食べ終えて重ねた皿がうず高く重ねられているのだ。


「水原さん……まさかとは思いますが、今日の夕食は食べるんですか?」
「ん? 食べるよ。当たり前じゃん。育ち盛りだからね!」


□一言ツッコミ
 天然燈馬君と、それをいいことに希望のWDをおねだりする可奈ちゃん(笑)。

 お題配布元:age様

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