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たちばな庵

二次創作メインのブログです。 男女CPオンリー。 ご注意ください。

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バレンタインデー(2009)

 デパートの特設売り場。
 バレンタインデーを目前にして、たくさんの商品にたくさんの女性が集まっている。
 可奈は売り場をざっと見て回った後、ウロウロと店内を行き来し、気になるものを手にとっては戻し手にとっては戻しと、かれこれ1時間程悩んでいた。
 せっかくだから、驚かせたいし、喜んで欲しい。
 けれど。
 経歴や彼の友人などから考えても、高級なものを食べ慣れているだろうことは容易に想像がつく。
 その上。
 ――あいつの好みはよくわかんないんだよっ。
 可奈は壁に拳を打ち付けたいのを我慢して、売り場を出た。
 悩んだけれど、決められなかった。
 最初に脳裏に浮かんだチョコレート――それは、おすそ分けでもらったときに、ひと口食べて涙が出るほど感動した、某有名ホテルのパティシエが作った「ショコラ」。
 当然、値段も張る。
 実際に昨日行ってみて、あまりの値段に驚き何も買わずに出てきてしまった。
 しかし、やはり、あのチョコしか考えられない。
 可奈は腹をくくって、再度、ホテルのラウンジへと向かった。


 13日の放課後。
「あれ、燈馬君は?」
 近くにいたクラスメイトに聞いてみたが、「帰ったみたいだよ」との返事
「え、そうなの? なぁんか、最近機嫌悪いんだよね。どうしたんだろ?」
「機嫌悪いの?」
「燈馬君が?」
 香坂と梅宮が信じられない、といった声音を出す。
「いつもと一緒だったよねえ?」
「うん、ふつーだった」
「嘘、いつもと全然違ったじゃん! ここんとこ、ずっとむすっとしちゃってさ」
「……そんなことわかるの、アンタだけだって」


 バレンタインデー当日。
 想に連絡しようとして結局できなかった可奈は、想のマンションに向かっていた。
 別に呼び出すつもりはなく、ポストに入れてメールをしておけば、不審物と間違われて捨てられることもないだろうと踏んだのである。
 そもそも直接渡すことも想定してなかった――というか、張り切ってチョコを用意したものの、義理チョコと思われるのも本命チョコと思われるのも違う気がしているのだ。
 なんてことをつらつらと考えながら歩いていると、マンションの前でばったり想と出くわしてしまった。
「お、おす」
「どうも」
「どっか行くの?」
「ええ。水原さんは?」
「うん、私もちょっとね」
 言いながら、この場でチョコを渡してしまおうか、とも思った。
 が、やはり想の機嫌は悪そうで……予定通りポストに入れようとマンションに視線をやる。
「僕に用事があったんじゃないんですか?」
 可奈の視線を追いながら想が言う。
「そうなんだけど、でかけるんでしょ? いいよ、大したことじゃないし」
「そうですか」
 じゃあ、と立ち去る想を可奈は思わず呼び止めた。
「えーっと、これ! いつも勉強みてもらったりしてるから!」
 そう言って、包みを差し出した。
「今日、バレンタインデーでしょ?」
「ありがとうございます。前に聞いたことがあります。日本のバレンタインデーは欧米とは違うって」
「アメリカではどうなの?」
「恋人同士でプレゼントをしあうんですよ。花束だったりカードだったり。チョコとは限らないです」
「へー……って、恋人同士!?」
「日本にはいろんな意味があるんですよね。愛の告白だったり、お世話になっている人へのお歳暮代わりだったり。ちゃんとわかってるから大丈夫です」
 想は言うが、可奈の心中は複雑である。
 けれど、否定する言葉も持ち合わせていない。
「ねえ、最近、何で機嫌悪いの?」
「それは……」
「何?」
「……昨日、皆さんに何か包みを配っていたでしょ?」
 恐らく、義理チョコ代わりのクッキーのことだろう。
 予算オーバーのチョコを買ったせいで、義理チョコや友チョコが用意できなくなってしまった。
 仕方がないので、家にある材料で作ったチョコクッキーを100円ショップのラッピング材で包むことにした。
 それを昨日、クラスメイトや部活仲間、先生などに配ったのだ。
「朝一番に会ったのに、僕にはなかったなあと」
 可奈は目をぱちくりさせた。
「それに最近、放課後はまっすぐ帰るし、部活のない休日も出てこなくなりましたし」
 それは予算オーバーのチョコを……以下略。
 しかし、それを説明するのは憚られた。
 そしてそれよりも……。
「何それ。もしかして、拗ねてたの?」
「そんなんじゃありませんが」
「へえ?」
 少しむくれる想を可奈は少し笑った後、さっきは聞けなかったことを聞いてみた。
「ね、どこ行くの?」
「買い物に……実は、気づいたら冷蔵庫の中が空になってまして」
「またぁ!?」
「すみません。また、です」
「しょうがないなあ。じゃあ、可奈ちゃんが美味しいご飯作ってあげるよ」
「お願いします」

 こうして2人はスーパーへと向かった。


 ――チョコの「意味」は、この感情に名前がつくまでのお楽しみ、ということで。


□あとがき□
 セーフ! 当日までにアップできました!
 2009年のバレンタインデーは土曜日でした^^

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大つごもりデート

 大晦日。
 想と可奈は、都内のコンサートホールから他の客と共に外に出た。
 会場内の空調が少し暑かったせいもあって、頬が少し火照っている。
 可奈は大きく伸びをして肩をこきこきと鳴らすと、手に持っていたコートを着込んだ。
「やはり、第3楽章は少しうとうとしていましたね? 眠くなると言っておいたのに」
 想に顔を覗き込まれて、可奈は少しふくれた。
「ちょっとだけでしょー。いちいちチェックするのやめてよ」
「すみません」
 想は笑って答える。
「でもさ、第九って思ってた曲と違ってた。『ハーレルヤ ハーレルヤ♪』ってあれかと思ってた」
「それはヘンデルのメサイアですよ。クリスマスによく聞く曲です」
 そう言いながら、第九を口ずさんでいる。
 ……鼻歌混じりなので、特に害が及ぶほどではない。
 お気に入りの指揮者、お気に入りのオーケストラの演奏がよほど素晴らしかったようで、すこぶる機嫌が良い。
 曲の感想を言い合っている2人の間を、冷たい風が吹き抜けた。
「寒っ、早く帰ろう。お節作るの、手伝わなきゃ。燈馬君も来るでしょ?」
「お邪魔します。警部のお相手、ですね?」
「へへっ、バレたか。夜は、父さんとK-1観る予定なんだ。その後、年越し参りに行こう」
「はい」


 駅へと向かいながら、可奈はそっと想に呟いた。
「じゃあ、次はその『メサイア』っての聞きたい」
「わかりました」
「楽しみにしてるね」
 来年の約束にどちらともなく微笑み合って。
 2人は家路へと急いだ。


□あとがき□
 久々の更新!
 皆様、良いお年を & 今後ともよろしくお願い致します!

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初めての髪、初めての表情(かお)

 可奈は今日も、放課後、想のマンションに立ち寄った。
 想はパソコンの前、可奈は床に寝転んでマンガを読んでいた。
 可奈がふと気配を感じて顔を上げると、想の視線とぶつかった。
「……何?」
 何となくもそもそと起き上がり、思わず正座などしてしまう。
「髪」
「は?」
「髪に触ってもいいですか?」
 ……急に、何を言うんだろう。もしかして、聞き間違い?
 気を取り直して、もう一度。
「ごめん、も一回。何?」
 しかし可奈の期待に反して、想は同じ言葉を繰り返した。
「髪に触ってもいいですか?」
「なっ!? ななな、何で!?」
 激しく動揺する可奈に反して、想のテンションは変わらない。
「キレイだなと思って。ダメですか?」
「だ、ダメってわけじゃないけど」
「じゃ、失礼して」
 想が席を立って、可奈の隣に座る。
 その手が、可奈の髪にそっと触れた。
「思ったよりも柔らかいんですね」
「そそ、そおお?」
 自分の髪と想の手が、首筋をかすめてくすぐったい。
「……水原さん、いい匂いがしますね」
 突然、髪がつん、と引っ張られたのでそちらを見ると、想が髪の先を唇に近づけようと……!
「ちょ……っ! 何やってんの!」
「何って、コロンじゃなさそうなので、何の匂いか確かめたかったのですが」
「そんなのつけてないよ! 多分、シャンプーだよ」
 言いながら、髪を想の手から奪還した。
「もういいでしょ? お終い!」
 対する想は、一瞬驚いた後、すぐに無表情になった。
「なんでですか? 僕はもういいなんて言ってません」
 怒っているのがわかる。正直怖い……でも恥ずかしい!
「何ででも! もう終わり!」
「納得できません」
 詰め寄られて顔が近い。
 可奈は顔を背けながら「終わりったら終わり」を繰り返す。
 けれど想も負けてはいない。納得のいく説明を求めてどんどん迫ってくる。
「恥ずかしいんだってば! もうやめてよぉ」
 半ば押し倒された状態になって可奈が半泣きで訴えると、想の動きがぴたりと止まった。
 我に返ったようだ。
「あ……、すみません、水原さん。大丈夫ですか?」
 想が身を起こして、可奈に手を差し伸べる。
「燈馬君のばかっ」
 可奈は想の手を振り払って自分で起き上がった。
「本当にすみませんでした。……泣かないでください」
「泣いてないっ」
「でも、ほら」
 想がそっと可奈の目尻をなで、指についた雫を見せてきた。
 ~~~~この男はっ!
「泣いてるのなんか自分でわかってるよ! 泣いてないって言ったら見て見ぬふりしなさいよ、デリカシーなし男!」
「す、すみません」
 想はびくりと手を引っ込め、可奈の目からは堪らず涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「でも……」
「何だよっ」
「泣き顔が可愛いので、見て見ぬふりはできません」
「だ……っ、黙れぇっ!」


 ――後はご想像どおり。
 想は頬についた手形が3日は消えなかった。


□あとがき□
 燈馬君はきっとこれで味をしめて、また可奈ちゃんを泣かせることでしょう。
 今回は天然、次回からはきっと確信犯(笑)。

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【お題】ワガママ姫さまの5つの命令

5.まだまだ全然足りないの


 想は信じられない思いで目の前に座る少女を見つめた。
 少女は美味しそうにリゾットを頬張っている。
 それは、よくある微笑ましい光景だろう。
 しかし。
 彼女の傍らには、食べ終えて重ねた皿がうず高く重ねられているのだ。


 3月13日の放課後。
隣を歩いていた可奈が突然立ち止まった。
「……燈馬君、私に何か言うことないの?」
「はい?」
 午後から笑顔がないな、と思ってはいたのだが、何か怒らせるようなことをしただろうか。
 必死で考えるが、思い当たらない。
「明日は何の日!?」
「明日、ですか? 3月14日……1953年に吉田内閣解散、俗に言う『バカヤロー解散』……違いますよね。あ、ジョヴァンニ・スキアパレッリの生まれた日」
「誰それ」
「天文学者です。と、言うことは、それも違うんですね」
 わけがわからない想に、可奈はますますムクれていく。
「そんな人知らないよ! 違うでしょ、明日はホワイトデーでしょう!?」
「ホワイトデー、って何ですか?」
 想は、可奈の顎が外れやしないかと心配した。
 それくらい、あんぐりと口を開けたのだ。
「……信じらんない。何でバレンタインデーを知っててホワイトデーを知らないのよ。
 ホワイトデーは、バレンタインデーのお返しをする日なの」
「そうなんですか。そんな日が」
 想は驚いた。
 日本でバレンタインデーといえば女性から男性にチョコを贈る日と聞いていたが、そのお返しの日が用意されていたとは。
 欧米では、男女関係なしにバレンタインデー当日に贈り物をし合うのだが。
「それはすみませんでした。ええっと、お返しはどうしたらいいんですか?」
 素直に謝ったら、少しは機嫌が直ったのだろうか、可奈の表情が変わった。
「チョコをもらった男の子は、女の子の好きなものを好きなだけ、何でもご馳走するんだよ」
「『何でも』ですか」
「やだ、そんな高いもの言ったりしないから心配しないで。ブッフェで手を打ったげる」
「わかりました。それが明日なんですね? 何時にしますか?」
「11時に、マンションに行くよ」
「わかりました」


 そして、ホワイトデー当日。
 ホテルのランチブッフェで、制限の2時間、ほぼ全種類の料理を平らげた可奈は満足そうに手を合わせた。
「ご馳走様でした。美味しかった!」
「それは良かったです。さて、これからどうしましょうか。どこか行きたいところ、ありますか?」
 会計を済ませ、レストランを出ながら想が言うと、可奈がキョトンとした。
「今から、デザートブッフェだよ」
「まだ食べるんですか!?」
「何よ、失礼ね。女の子にとって甘いものは別腹なの! さ、カフェコーナーへ行くよ」


 想は信じられない思いで目の前に座る少女を見つめた。
 少女は美味しそうにケーキを頬張っている。
 それは、よくある微笑ましい光景だろう。
 しかし。
 彼女の傍らには、食べ終えて重ねた皿がうず高く重ねられているのだ。


「水原さん……まさかとは思いますが、今日の夕食は食べるんですか?」
「ん? 食べるよ。当たり前じゃん。育ち盛りだからね!」


□一言ツッコミ
 天然燈馬君と、それをいいことに希望のWDをおねだりする可奈ちゃん(笑)。

 お題配布元:age様

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【お題】ワガママ姫さまの5つの命令

4.このままぎゅっとしてて


 学校からの帰り道。
 可奈と想はいつものように並んで歩いていた。
 もうすっかり陽が落ちて、空には星が瞬いている。
「寒いねえ……」
 可奈が口を開いた。
 寒さで声も震えるほどだ。
「今、冬型の気圧配置が日本中を覆っていますから。まあ、明日には緩むと思いますよ……あれ、水原さん、いつもしている手袋はどうしたんですか?」
 可奈がはあっと両手に息を吹きかけたのを見て、想が聞く。
「今頃気づいたの? 朝、慌ててて忘れたの!」
「そうでしたか」
「あんたね、もうちょっと言い方ってもんがあるでしょ……っ!?」
 そっけない返事に抗議しようとした可奈の語尾が消えた。
 ――想が、可奈の手を包んだのだ。
「……何やってんの?」
「手が冷たそうだな、と思って。ほら、やっぱりこんなに冷えて。もう感覚ないでしょう。何で言わないんですか」
「何でって……」
 まさか、手を温めてくれるなんて思ってもなかったから、なんて言えるはずもなく。
 照れ臭いのもあって、代わりに別のことを言った。
「こ、こんな両手つないでたら歩けないじゃん。早く帰ろうよ、寒いし」
「そうですね。マンションに寄って行きますか? 温まってから帰った方が良さそうですし。手袋もお貸ししますよ」
「……うん」
 可奈が素直に頷くのを見て、想が手を離す――その前に、可奈が想の手を握った。
「水原さん?」
「あ、えーっと、その――何も、両方離すことないでしょ? 片手なら何の支障もなく歩けるわけだし……って、嫌ならいいけどっ!」
 一転して、可奈は想の手を振りほどこうとした。
 が、今度は想が可奈の手をぎゅっと握り返してニッコリと笑う。
「そうですね」

 すでに可奈の体温はこれ以上ないほどに上昇していて、想のマンションに寄る必要もないように思えるけれど。
 何も言わずに想に手をひかれたまま歩き始めた。

 ――この鼓動がバレてませんように、と祈りながら。


□一言ツッコミ
でも、当然バレてます(笑)。

 お題配布元:age様

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