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たちばな庵

二次創作メインのブログです。 男女CPオンリー。 ご注意ください。

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オマジナイ

 コイビト設定。糖度高めです。

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2010年のホワイトデイ

 気配を感じてふと目が覚めた。
 時計を見ると午前2時過ぎ。
 言うまでもなく、草木も眠る時刻である。

 和葉は気のせいだと自分に言い聞かせ、頭まで布団をかぶって再び寝ようとした。

 すると、今度ははっきりと「コンコン」と窓を叩く音が聞こえた。

 思わず息を飲むと、「和葉、オレや、起きろっ」という声――掠れさせていてもわかる。平次だ。
 慌ててカーテンを開けると、やはりそこには平次がいた。
 
 日中はだいぶ暖かくなってきたとはいえ、深夜はまだまだ寒い。
 窓の向こうの平次はカタカタ震えている。

「何やってんの、アンタ。事件は?」
 平次を招き入れようと窓を開けるが、平次はそこから動かない。
「アホか。そんなんちゃっちゃと解決したったわ。オレを誰やと思て……」
 そこまで言って、平次は小さくクシャミした。

 平次に触れると、やはりひんやり冷たい。
「早よ中に入り。あったかい飲み物持ってきたげるから」
「いや、もう帰るからええわ。それより、明日な、いや、もう今日か。
 買いモン行くからつき合えや。昼前に起こしに来てくれ」
「は? 何やの、いきなり」
「ええから。起こしに来いよ、わかったな」

 平次はそれだけ言うと、和葉の返事も聞かずに帰っていった。

「……何買いに行くんやろ。追い出しコンパの景品とかかな」
 和葉は首をひねりながら戸締まりを確認して再びベッドに入った。

 暦はすでに3月14日。
「ホワイトデイの最初に会えるなんて、幸先の良い1日やわ」
 呟き、目を閉じる。
 和葉の脳裏に、着ていく服のコーディネートが目まぐるしく浮かんでは消えていった。


□あとがき□
 平次君は和葉ちゃんのプレゼントを買うつもりです……が、伝わってないのは日頃の行いが悪いせい(爆)。

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3つの袋

 部活が終わって礼をして。
 頭を上げたところで道場の戸口から声をかけられた。
「和葉! 今日と明日、オカンがおらんのや。メシ作ってくれ」
「オバチャンから聞いとるよ。帰りに買いもんしてくからつき合ってーな」
「へいへい。荷物持ちやろ?」
「そ。着替えてくるから待っとって」
「腹ペコなんや。早よせーや」
 そんな会話をしてから更衣室へ向かうと、みんなの視線が注がれた。
「アンタらさあ……何でそれでつき合ってないわけ?」
「服部先輩、手作りのお弁当とか調理実習で作ったものとか、受け取らはらへんってホンマですか? お母さんか和葉先輩の作ったものしか食べはらへんって」
「そんなん噂ちゃうのー? 確かに平次ん家のオバチャンから料理教えてもらってるけど、いくらなんでも極端ちゃう?」
 笑ってはぐらかしながら手早く着替えて、「お先に」と平次の元へ急いだ。

 ――アタシと平次は、本当につき合ってない。
 まだまだ平次に告白する勇気はないけど、アタシだって努力してる。
 料理はそのひとつ。


 中学生の頃やったか、まだ小学校の高学年やったか……平次の人気は年を追うごとに目に見えて上がりプレゼントも増えて、それに比例してアタシの不安もどんどん大きくなっていったことがあった。
 アタシは幼馴染で側におるだけやから、いつか、この場に別の女の子が…。
 そう悶々と思い悩むアタシに、お母ちゃんが言った。
「和葉。オトコはな、胃袋つかんどかなアカン」
「胃袋?」
「そう。『3つの袋』言うてな。『お袋、堪忍袋、胃袋』や。この3つを大事にしとけば、多少、外でおイタしてもちゃんと戻ってくるもんや」
 いきなりそんなことを言われても、何をどうしたら……。
「静華さん、料理上手やろ。教えてもらい。あれほどの腕、そうそうおらへんから、他の女の子よりリードできるで」
 なるほど!
「静華さんにはお母ちゃんから話しといたげるわ」
「うん! あ、でも、平次のことは」
「わかってるって。その辺はちゃんと隠しといたげるから安心し」
「ありがと、お母ちゃん」
 ――こうしてアタシは、オバチャンから料理を教わるようになった。
 おかげで、新鮮な野菜の見分け方から出汁のとり方まで、一通りできる。
 そんな女子高生、そうそうおらへんのちゃう?


 平次と買い物して、ご飯を作って、アタシもお相伴に預かる。
 平次はいつも、「美味しい」とも何とも言わんまま、箸を口に運ぶ。
 その度に、「もっと上手にならな」と思ってたんやけど。
 ふと、更衣室での聞いた話を出してみた。
「なあ、アンタ、変な噂出てるの知ってる?」
 平次は口をもぐもぐ動かしながら、目線だけで続きを聞いてきた。
「手作りの食べ物は受けとらへんのやて。オバチャンとアタシが作ったものしか食べられへんらしいよ」
 ――あ、止まった。
 ぐっ、とか何とか、平次の喉から音がする。
 平次はお茶をひと口飲んでから、「アホか」とだけ言って、ご飯をかきこんだ。

 
 お母ちゃん、「3つの袋」、効果あるわ。
 オバチャンのことは大好きやし、言われんでも大事にできてると思う。
 料理も合格点みたい。
 
 「堪忍袋」はなかなか難しいけど、頑張らな!


□あとがき□
 今どき、結婚式で「3つの袋」のスピーチする人なんているのでしょうかねー?(笑)(私が働いていた頃は定番でした)

 もともと本誌読んでない上、コミックスも途中で止まってます…。
 遠山母、何となくちゃきちゃきした性格のイメージです。

 遠山父は何か「おイタ」をしたことがあるのでしょうか(笑)。

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赤いパンプス

「お前な、しんどかったらしんどいて言え」
 前を歩いていた平次が突然振り返った。
「え、何が?」
 和葉はとぼけたが、平次は呆れたように息をつく。
「俺が気づかんとでも思っとんのか? さっきからひょこひょこ足ひきずりやがって」
「……そんなことないもん」
「ほんなら、こんだけぎょうさん店並んどんのにぎゃあぎゃあ寄り道せんのは何でや」
「それは……何かこう、興味のひくもんないから」
「ウソつけ」
 平次はぴしゃりと言って、和葉の足元を指さした。
 ヒールの高さ5cmほどの、赤いパンプス。
 今日の約束が決まってから買ったものだ。
「それのせいやろが。おろしたてか?」
「……うん」
「慣れんもん履いてくるからや。――そこの公園寄るぞ」
 平次はさっさと公園に入ると、ベンチを顎で指して、そこに座るよう促した。
「ほれ、靴脱げ」
 和葉はもそもそと靴を脱いだ。
「あーあー、靴擦れしまくりやんけ。熱持っとるし……アホやろ、お前」
 平次は憎まれ口を叩きながら、和葉の足に濡らしたハンカチを当てる。
 傷口がしみて、和葉は唇を噛んだ。
「部屋ん中で履いて慣らしとくとかあらかじめ絆創膏貼っとくとか、何か対処しとけ」
「……うん」
 足の火照りがとれたところで、和葉の出した絆創膏を貼って手当てを終える。
「よっしゃ。終了。ほな行こか」
 平次は立ち上がり、腕を差し出した。
 和葉は意味がわからず平次を見上げた。
「何アホ面しとんねん。捕まれて。足まだ痛いやろ」
「あ、うん。ありがとう」
 和葉はまだ腑に落ちない顔で立ち上がり、おずおずと平次の腕につかまった。
「映画の時間までまだまだあるから。歩くのしんどなったらちゃんと言えよ」
「うん」
「歩くスピード、これくらいでええか?」
「うん」
「……何や、さっきから『うん』しか言わへんな」
「やって……平次が優しくて調子狂う」
「アホか。俺はいつでも優しいわ」
 そう言って平次は笑う。
 和葉もつられて笑った。
「似合わない靴を履くな」と言われなかったことが嬉しかった。
「なあ? この靴、どう思う?」
「あー? ええんちゃうか? ……けど、俺がおらんとこでは履くなよ」
「え?」
 思いがけない言葉に和葉が聞き返すと、平次は「何でもないわ」と言ってそっぽを向いた。

 ――初めてのハイヒール。
 和葉は、平次の腕をつかむ手に少しだけ力をこめた。

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服部家の大晦日

 台所で年越し蕎麦の用意をしていると、背後に人の気配を感じた。
「お蕎麦、海老天とかき揚げ、どっちがええ?」
「海老」
「あっ、コラ! お重からつまみ食いせんの! こっちに余ったのあるから」
「ん」
 キレイに盛ったお節料理のつまみ食いを寸前で阻止して、小皿に分けた黒豆を箸でつまんで相手の口元に持っていく。
「美味しい?」
「ん」
 特に感想は述べず、今度は田作りを顎で指す。
「はいはい」
 田作り、かまぼこ、なますと続いて、さすがに眉をひそめた。
「これで最後やで? お蕎麦食べられやんくなるやん」
「ほな、最後にソレ」
 そう言って、揚げたばかりの海老をねだる。
「しゃーないなあ」
 苦笑して、まだ熱い海老天に息を吹きかけて口元に持っていく。
「あーっ、おとーちゃんがおかーちゃんに甘えとるー!」
 急にそう声をかけられて、思わず海老天を落としそうになる。
 咄嗟に手でキャッチして口に入れた。
「だーれが甘えてたじゃ、コラ!」
「ふうふうしてもうてたやーん」
「食べさしてもろてたん、見たもんなー」
「なー」
「黙らんと、お年玉ナシやぞ!」
「そんなん嫌やー」
「きゃーっ」
 笑いながら逃げる子ども達を追いかけて、つまみ食い犯は向こうへ行ってしまった。
「もうすぐご飯やからね! ほどほどにしとかなアカンよー」
 和葉は3人の背後へ声をかけ、続きに戻った。
「さっ、急がな、日が暮れてまうわ」
 少し低めに結ったポニーテールが左右に揺れる。

 ――高校を卒業してから10年後の、服部家の大晦日。

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