たちばな庵
二次創作メインのブログです。 男女CPオンリー。 ご注意ください。
カテゴリー「QED」の記事一覧
- 2024.11.22
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- 2012.12.30
Song
- 2012.12.30
スリーピング ビューティ……い?
- 2012.12.30
草食系男子
- 2012.12.30
26巻 タイムカプセルその後
- 2012.12.30
バレンタインデー(2009)
Song
- 2012/12/30 (Sun)
- QED |
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- ▲Top
年末になると、歌番組が増える。
――珍しく、想の家のテレビからJ-POPが流れている。
もちろん、可奈がチャンネルを合わせたのだ。
「あ、燈馬君、この人だよ! 私がこの間コンサート行ったの」
想は、パソコンのモニターからテレビに視線を移した。
予想していたことだが、初めて見る顔だ。
「やっぱり知らないんだ。有名なのにな~」
可奈はそう言って笑う。
テレビへ視線を戻して、テレビの人物と一緒になって口ずさみながら体全体でリズムを取る。
一緒に行く予定だった子が行けなくなったと誘われたコンサートで、可奈はその人物に「ハマった」らしい。
翌日の学校帰りにCDショップに寄り、延々と話を聞かされた。
――だけでなく、新しいエピソードを仕入れては報告を受ける毎日だった。
曲が終わり、CMが入った。
可奈は再び想へ向き直る。
その顔は一言で表すなら「上機嫌」だ。
「やっぱカッコいいね~。『大人のオトコ』って感じ。ああいうのを色っぽいって言うのかな」
同意を求められても困る。
想が返事しないのも意に介さず、可奈は続ける。
「あーんな声でラブソングとか歌われたら、女の子なら誰でも落ちちゃうよねっ」
――なぜだろう。一瞬、キーを打つ手が止まった。
「僕は『オンナノコ』ではないので、わかりませんね」
可奈が、「おや」という顔をする。
「燈馬君? もしかして、ヤキモチ焼いたの?」
――ヤキモチ? これが?
想が戸惑っていると、可奈はまたテレビへ向いてしまった。
CMが終わったのだ。
「プロにヤキモチ焼いてどーすんの。明日の放課後、カラオケ行こう」
「はい?」
脈絡が見えない。
「私は燈馬君の一生懸命歌う姿も好きだけどね。発声練習、続けてるんでしょ? 成果を見てあげるよ」
――なぜ、「見てあげる」なのだろう。
疑問に思ったが、それは口に出さず。
可奈が帰った後、風呂場で特訓しようと計画する想であった。
――珍しく、想の家のテレビからJ-POPが流れている。
もちろん、可奈がチャンネルを合わせたのだ。
「あ、燈馬君、この人だよ! 私がこの間コンサート行ったの」
想は、パソコンのモニターからテレビに視線を移した。
予想していたことだが、初めて見る顔だ。
「やっぱり知らないんだ。有名なのにな~」
可奈はそう言って笑う。
テレビへ視線を戻して、テレビの人物と一緒になって口ずさみながら体全体でリズムを取る。
一緒に行く予定だった子が行けなくなったと誘われたコンサートで、可奈はその人物に「ハマった」らしい。
翌日の学校帰りにCDショップに寄り、延々と話を聞かされた。
――だけでなく、新しいエピソードを仕入れては報告を受ける毎日だった。
曲が終わり、CMが入った。
可奈は再び想へ向き直る。
その顔は一言で表すなら「上機嫌」だ。
「やっぱカッコいいね~。『大人のオトコ』って感じ。ああいうのを色っぽいって言うのかな」
同意を求められても困る。
想が返事しないのも意に介さず、可奈は続ける。
「あーんな声でラブソングとか歌われたら、女の子なら誰でも落ちちゃうよねっ」
――なぜだろう。一瞬、キーを打つ手が止まった。
「僕は『オンナノコ』ではないので、わかりませんね」
可奈が、「おや」という顔をする。
「燈馬君? もしかして、ヤキモチ焼いたの?」
――ヤキモチ? これが?
想が戸惑っていると、可奈はまたテレビへ向いてしまった。
CMが終わったのだ。
「プロにヤキモチ焼いてどーすんの。明日の放課後、カラオケ行こう」
「はい?」
脈絡が見えない。
「私は燈馬君の一生懸命歌う姿も好きだけどね。発声練習、続けてるんでしょ? 成果を見てあげるよ」
――なぜ、「見てあげる」なのだろう。
疑問に思ったが、それは口に出さず。
可奈が帰った後、風呂場で特訓しようと計画する想であった。
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スリーピング ビューティ……い?
- 2012/12/30 (Sun)
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自分で言うのもナンだけど、珍しく家でマジメに宿題をしていた。
ら。
小さな小さな燈馬君に「そこ、間違ってますよ!」と怒られた。
……燈馬君。もともと小柄だけど、身長10cmてのは有り得なくない?
そう心の中でツッコんでいると、
「寝てる場合じゃないでしょう! ほら、こっちも違う」
……ああ、そうか。私、寝てるんだ。じゃあ、これは夢なんだな。
燈馬君が小さい理由がわかってスッキリした。
「ほら、これもこれも。水原さん、書けばいいってもんじゃないんですよ!」
夢の中までうるさいヤツだなあ。
「もうっ、そんなにあーだこーだ言わないでよ。代わりにやってくれたらいいじゃん。どうせ夢なんだから」
起きる気のない私に諦めたのか、ムっとした顔の燈馬君がわらわらと出てきて宿題の続きをやり始めた。
最初に出てきた燈馬君が指示を出して、別の1人がシャーペンを持って、さらに別の1人が消しゴム係。
……ていうか、消しゴム係の燈馬君、私が書いたページ、全部消しちゃったんだけど。
これはさすがにマズいかも(汗)。
そんなことを思いながら燈馬君を見ていると、何となく肩に重みを感じた。
燈馬君が毛布をかけてくれてるんだ。
小さな体では重いだろうに、ミニチュア燈馬君2人がかりで力いっぱい毛布を引き上げている。
ふふふ。
どんなに仏頂面してても、本当は優しい人なんだよね。
――私は心に暖かいものを感じながら、深い眠りについた。
宿題も完璧だしね!
「可奈ーっ! いつまで寝てるの!」
母さんの大きな声で目が覚めた。
あれ、もう朝か……何時だろ……。
――げっ、遅刻しちゃう!
時計を見て慌てて飛び起きると、ぱさり、と毛布が落ちた。
しばしそれを見つめて、一気に思い出した。
そうだ、昨日、燈馬君が宿題やってくれたんだっけ……って。
ノート真っ白じゃん! 何で!?
「可奈! いい加減にしなさいよ!」
下から、再び母さんの声がする。
そうだ、今はそんなこと考えてる場合じゃないや!
我に返って、とりあえず身支度をすませて、ダッシュで家を出た。
学校まで走っていると、正門前で燈馬君の背中に追いついた。
――はーっ、間に合った。
「おはようございます、水原さん」
それには答えず、ひとまず一発、拳を振るった。
「なっ! 朝から何するんですか!」
「アンタのせいで宿題真っ白なんだからね! 責任取って、後から見せてよ!」
「はあ?」
燈馬君が頭に「?」を浮かべている。
けどいいの! 燈馬君のせいなんだから!
□あとがき□
コミックス33巻「推理小説家殺人事件」の扉絵より妄想。
……にしても、可奈ちゃん。傍若無人にもホドが……(苦笑)。
ら。
小さな小さな燈馬君に「そこ、間違ってますよ!」と怒られた。
……燈馬君。もともと小柄だけど、身長10cmてのは有り得なくない?
そう心の中でツッコんでいると、
「寝てる場合じゃないでしょう! ほら、こっちも違う」
……ああ、そうか。私、寝てるんだ。じゃあ、これは夢なんだな。
燈馬君が小さい理由がわかってスッキリした。
「ほら、これもこれも。水原さん、書けばいいってもんじゃないんですよ!」
夢の中までうるさいヤツだなあ。
「もうっ、そんなにあーだこーだ言わないでよ。代わりにやってくれたらいいじゃん。どうせ夢なんだから」
起きる気のない私に諦めたのか、ムっとした顔の燈馬君がわらわらと出てきて宿題の続きをやり始めた。
最初に出てきた燈馬君が指示を出して、別の1人がシャーペンを持って、さらに別の1人が消しゴム係。
……ていうか、消しゴム係の燈馬君、私が書いたページ、全部消しちゃったんだけど。
これはさすがにマズいかも(汗)。
そんなことを思いながら燈馬君を見ていると、何となく肩に重みを感じた。
燈馬君が毛布をかけてくれてるんだ。
小さな体では重いだろうに、ミニチュア燈馬君2人がかりで力いっぱい毛布を引き上げている。
ふふふ。
どんなに仏頂面してても、本当は優しい人なんだよね。
――私は心に暖かいものを感じながら、深い眠りについた。
宿題も完璧だしね!
「可奈ーっ! いつまで寝てるの!」
母さんの大きな声で目が覚めた。
あれ、もう朝か……何時だろ……。
――げっ、遅刻しちゃう!
時計を見て慌てて飛び起きると、ぱさり、と毛布が落ちた。
しばしそれを見つめて、一気に思い出した。
そうだ、昨日、燈馬君が宿題やってくれたんだっけ……って。
ノート真っ白じゃん! 何で!?
「可奈! いい加減にしなさいよ!」
下から、再び母さんの声がする。
そうだ、今はそんなこと考えてる場合じゃないや!
我に返って、とりあえず身支度をすませて、ダッシュで家を出た。
学校まで走っていると、正門前で燈馬君の背中に追いついた。
――はーっ、間に合った。
「おはようございます、水原さん」
それには答えず、ひとまず一発、拳を振るった。
「なっ! 朝から何するんですか!」
「アンタのせいで宿題真っ白なんだからね! 責任取って、後から見せてよ!」
「はあ?」
燈馬君が頭に「?」を浮かべている。
けどいいの! 燈馬君のせいなんだから!
□あとがき□
コミックス33巻「推理小説家殺人事件」の扉絵より妄想。
……にしても、可奈ちゃん。傍若無人にもホドが……(苦笑)。
草食系男子
- 2012/12/30 (Sun)
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「『ボイス』終わっちゃったねー。えーた、カッコ良かった~」
「私は毎週『めいちゃん』観てた! ひろくんが超素敵だったよー。私もあんな風に仕えてもらいたい~」
「「周りにああいう草食系男子、いないかなあ~」」
悶える2人の前で、大口を開けてハンバーガーを頬張る少女が1人。
「草食系? 何それ」
聞くと、香坂・梅宮が一斉に可奈を見た。
「アンタはほんとに呑気だね。あ、そっか。可奈にはもう草食系王子がいるもんね」
「雑誌でも特集組まれてるんだよ」
香坂が拗ねたように頬杖をつき、隣に座っていた梅宮が女性雑誌を取り出した。
開いたページの見出しは
「草食系男子のオトしかた?」
まだ頭に「?」を浮かべる可奈に、梅宮がページをめくる。
「こっちにチェックシートがあるよ。燈馬君でやってみたら?」
可奈は乗り気がしないまま、雑誌を指でなぞった。
■チェック項目
1. 財布の中に、ポイントカードが5枚以上入っている
2. 食事は1日に2回、もしくは1回
3. スイーツに目がない
4. 地元の友達と遊ぶ機会が多い
5. 家族、特に母親と仲が良い
6. エコに興味がある
7. 飲み会の席で、1杯目からソフトドリンクを頼むことがある
8. ヘアスタイルやスキンケアに気を遣っている
9. 女性とお泊りしても、何も起きないことがある
10. 人と競争するのが嫌いだ
「えっと、○が3つ、かな。
『草食度30%。恋も仕事も攻撃型、いまや絶滅の危機に瀕している肉食系。
時代の流れを読まないと、モテなくなる日は近いかも』
だって」
「ええーっ!? それはないでしょう!」
「診断、間違ってるんじゃないの?」
可奈の出した結果に2人とも不満を露にするが、可奈とてちゃんと読んで考えたのだ。
「そんなこと言ったって。
ポイントカードは断ったりしてお財布の中はシンプルだし、1は×でしょ。
食事は、何かに没頭すると抜いちゃうことがあるくらいだから○。
スイーツ……食べなくはないけど、目がないって程じゃない。×。
地元って、燈馬君の場合はボストンだよね。ロキとかともよく遊んでるけどやっぱり距離あるし、こっちでもけっこう交友関係広いよ。今日も、ネットで仲良くなったどっかの大学教授の講演に行ってる。だから×。」
「えー、意外」
「家族と仲が良い……うーん、悪くはないと思うけど、お互い自立してて別に住んでるし×でしょ」
「そういえば、燈馬君の家族ってどうなってるの?」
「ご両親は建築家と歴史学者で、歴史的建造物の修復で世界を飛び回ってるんだって。妹がいて、ボストンで1人暮らししてる。学者一家だね」
「へえー」
「エコ……ファーストフードにも普通に入るし、マイ箸持ち歩いてるわけじゃないし、×。
飲み会ったって、未成年だから当然ソフトドリンクだけど。けど、ロキに『つき合い悪い』とか絡まれても飲まないし。20歳になっても、自分が飲みたくなければ飲まないと思うよ。○」
「そんな感じだね」
「でしょ?
たまに寝癖ついてるから次は×。
一緒に旅行に行ってる私と何もない。○」
「そこがわかんないんだよね。何でアンタらつき合ってないわけ?」
「だからそんなんじゃないって。
最後ね。好戦的なわけじゃないけど、挑まれたら負けないよ。結構負けず嫌い。×」
「そうなの!? 今のが一番びっくりした」
「ほら、やっぱり○3つじゃん。草食系じゃないんだよ」
勝ち誇ったように言う可奈に、香坂と梅宮は顔を見合わせた。
「まあ、あれだね」
「うん」
「何よ」
「つまり、隣にいるのが可奈だから、燈馬君が典型的な草食系に見えるってこと」
「どーいう意味よ!」
「ほら、アンタが一番肉食系じゃん」
ねえ? と頷きあう2人に可奈は異論を唱えたが、全く聞き入れてもらえないのだった。
□あとがき□
チェックシートは、某情報サイトの特集ページより。
「みんなの知らない燈馬君をよく知っている可奈ちゃん」が書きたかったのです。
はるき目線で燈馬君を分析(というほどではないですが)してみましたが、いかがでしょうか?
「私は毎週『めいちゃん』観てた! ひろくんが超素敵だったよー。私もあんな風に仕えてもらいたい~」
「「周りにああいう草食系男子、いないかなあ~」」
悶える2人の前で、大口を開けてハンバーガーを頬張る少女が1人。
「草食系? 何それ」
聞くと、香坂・梅宮が一斉に可奈を見た。
「アンタはほんとに呑気だね。あ、そっか。可奈にはもう草食系王子がいるもんね」
「雑誌でも特集組まれてるんだよ」
香坂が拗ねたように頬杖をつき、隣に座っていた梅宮が女性雑誌を取り出した。
開いたページの見出しは
「草食系男子のオトしかた?」
まだ頭に「?」を浮かべる可奈に、梅宮がページをめくる。
「こっちにチェックシートがあるよ。燈馬君でやってみたら?」
可奈は乗り気がしないまま、雑誌を指でなぞった。
■チェック項目
1. 財布の中に、ポイントカードが5枚以上入っている
2. 食事は1日に2回、もしくは1回
3. スイーツに目がない
4. 地元の友達と遊ぶ機会が多い
5. 家族、特に母親と仲が良い
6. エコに興味がある
7. 飲み会の席で、1杯目からソフトドリンクを頼むことがある
8. ヘアスタイルやスキンケアに気を遣っている
9. 女性とお泊りしても、何も起きないことがある
10. 人と競争するのが嫌いだ
「えっと、○が3つ、かな。
『草食度30%。恋も仕事も攻撃型、いまや絶滅の危機に瀕している肉食系。
時代の流れを読まないと、モテなくなる日は近いかも』
だって」
「ええーっ!? それはないでしょう!」
「診断、間違ってるんじゃないの?」
可奈の出した結果に2人とも不満を露にするが、可奈とてちゃんと読んで考えたのだ。
「そんなこと言ったって。
ポイントカードは断ったりしてお財布の中はシンプルだし、1は×でしょ。
食事は、何かに没頭すると抜いちゃうことがあるくらいだから○。
スイーツ……食べなくはないけど、目がないって程じゃない。×。
地元って、燈馬君の場合はボストンだよね。ロキとかともよく遊んでるけどやっぱり距離あるし、こっちでもけっこう交友関係広いよ。今日も、ネットで仲良くなったどっかの大学教授の講演に行ってる。だから×。」
「えー、意外」
「家族と仲が良い……うーん、悪くはないと思うけど、お互い自立してて別に住んでるし×でしょ」
「そういえば、燈馬君の家族ってどうなってるの?」
「ご両親は建築家と歴史学者で、歴史的建造物の修復で世界を飛び回ってるんだって。妹がいて、ボストンで1人暮らししてる。学者一家だね」
「へえー」
「エコ……ファーストフードにも普通に入るし、マイ箸持ち歩いてるわけじゃないし、×。
飲み会ったって、未成年だから当然ソフトドリンクだけど。けど、ロキに『つき合い悪い』とか絡まれても飲まないし。20歳になっても、自分が飲みたくなければ飲まないと思うよ。○」
「そんな感じだね」
「でしょ?
たまに寝癖ついてるから次は×。
一緒に旅行に行ってる私と何もない。○」
「そこがわかんないんだよね。何でアンタらつき合ってないわけ?」
「だからそんなんじゃないって。
最後ね。好戦的なわけじゃないけど、挑まれたら負けないよ。結構負けず嫌い。×」
「そうなの!? 今のが一番びっくりした」
「ほら、やっぱり○3つじゃん。草食系じゃないんだよ」
勝ち誇ったように言う可奈に、香坂と梅宮は顔を見合わせた。
「まあ、あれだね」
「うん」
「何よ」
「つまり、隣にいるのが可奈だから、燈馬君が典型的な草食系に見えるってこと」
「どーいう意味よ!」
「ほら、アンタが一番肉食系じゃん」
ねえ? と頷きあう2人に可奈は異論を唱えたが、全く聞き入れてもらえないのだった。
□あとがき□
チェックシートは、某情報サイトの特集ページより。
「みんなの知らない燈馬君をよく知っている可奈ちゃん」が書きたかったのです。
はるき目線で燈馬君を分析(というほどではないですが)してみましたが、いかがでしょうか?
26巻 タイムカプセルその後
- 2012/12/30 (Sun)
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放課後。
可奈と想は通学路にある書店から出てきた。
「あーもう、どうして発売日って重なるのかな」
「またこんなにマンガ買って。後々『お小遣いが足りない』って言っても知りませんよ」
文句を言いながらも満足げな可奈に、想は苦言を呈す。
が、可奈は鼻歌を歌いながら聞き流した。
ちなみに、何冊ものマンガが入った書店の紙袋を持っているのは想だ。
「――あれ、水原?」
そんな2人に、声がかかった。
見ると、サッカーの強豪で知られる、隣町の学校の制服を着た男子高生2人だった。
2人ともすらりと背が高く、日に焼けている。
1人は赤い髪をして、1人は黒髪だ。
誰だろう、と記憶を辿った可奈の頭で、光が弾けた。
「もしかして、辛島君?」
赤い髪をした少年は「そのとおり」と笑った。
「えっと、こっちの子は――」
思い出せない可奈に、黒髪の少年は笑うばかりで、辛島はにやりと笑う。
「こいつは新田。覚えてるか?」
「え、新田君!? うそ、全然わかんないよ! 別人じゃん!」
「お前、変わんねーな。本人だって」
可奈の遠慮ない言葉に、辛島も苦笑する。
「ま、わかんないのも仕方ないけどな。こいつ、変わったもん。
オレら、偶然なんだけど、あん時の転校先同じでさ。新田も、向こうでサッカー始めたんだよ。最初は練習がキツくて泣いてたくせに、今ではレギュラーだもんな」
「そうなんだー」
「咲坂高校にやったら強い女剣士がいるって噂に聞いたけど、やっぱお前のことだったんだな」
初めて新田が口を開いた。
小学生の頃からは想像つかないけれど、低く落ち着いた声に「お前」という言葉はしっくり馴染んでいた。
「で、こっちは? オレらと学校違ったよな?」
辛島の言葉に、新田や可奈も想を見る。
「ああ、燈馬君は、高校からだよ」
「カレシ?」
「ち、違うよ!」
辛島は今度は「イシシ」と笑う。
辛島は、可奈の記憶と変わっていなかった。
「立ち話もなんだから、どっか行かねえ? オレ、腹ペコなんだ」
「そうだね、少し行った所にファミレスが……」
「ほーら、やっぱり! オレの推理は正しかった!」
「ロキ!」
そこへ、ロキが突然現れた。
「いつ日本へ?」
「今日だよ、今! マンションに行ったら、お前いねぇんだもん。けど、授業は終わってるはずだから、学校への道順を辿ったら水原と一緒のところに会えると思ったぜ。ドンピシャだ」
「またそんな。事前に連絡くれればいいのに」
「いーのいーの! こうやってちゃんと会えたんだからよ!」
そんなやりとりの後、ロキは辛島と新田を見た。
「で、そっちは? 水原がナンパされ中? 燈馬、何やってんだよ」
「そんなんじゃないよ。2人とも、水原さんと小学生のときのクラスメイトなんだ。
――では水原さん、僕達はここで。マンガ、お返ししますね」
そう言って紙袋を渡す想の腕を可奈は引っ張る。
「え、燈馬君も行こうよ」
「何言ってるんですか。辛島君や新田君と積もる話もあるでしょう。ロキも来ていることですし」
「そうだけど……」
「じゃ、また明日」
「――あ、明日は朝練ないからね!」
ロキを促して立ち去る想の背中に声をかけると、想は振り返ってにっこり笑った。
「なあ、いいのかよ、野郎2人のところに水原置いてきて」
「2人とも水原さんの幼友達って言ったろ? 僕達は部外者なんだから」
想のマンション。
居間に座るなり、ロキは行儀悪く頬杖をついて、口を尖らせた。
「けどよ、あの2人、絶対、水原に気があるって。これはからかってるわけじゃなくて」
そんなことは、想にもわかっていた。
――2人が転校したのは、親の転勤が理由ではない。
ということは、引越し先がさほど遠方ではないことは予想していた。
子どもにとっては今生の別れに思えても、高校生となった今では、大した距離ではない。
現に、2人とも着ていた制服の高校は、電車で20分も離れていないところにある。
隣町と比べれば確かにこちらの方が栄えてはいるが、渋谷や新宿にも近い。遊びに出るなら、そちらに行くだろう。
わざわざここに来たのは、もしかしたら可奈と会う偶然を求めていたのではないか――辛島が可奈をすぐに見分けて声をかけたこと、「咲坂高校の女剣士」と聞いて可奈だと思っていたことから、確信を持っている。
――そして、香坂が言ったように、2人が可奈を好きだったことも。
きっと2人とも、可奈にいつ会っても良いように男を磨いていたことだろう。
特に新田は相当な努力をしたはずだ。
想は、自分に向けられた複雑な色の視線を思い浮かべた。
「いいんだよ」
想が澄まして答えると、ロキはにやりと笑う。
「水原に限って浮気はない、大丈夫、ってか?」
「そんなんじゃないよ」
そんなんじゃない。
ただ、2人には、可奈を諦めてもらわなければ。
そんな思惑があって、可奈をあの場に残したのだ。
おそらく、2人にとって可奈は初恋の相手だろう。
それをすでに思い出にして新しい恋を始めているなら問題ないのだが、2人の自分を見る目を考えると、まだ可奈のことを忘れてはいない。
それならば、自分がいない状況を作って可奈に告白させ、それを可奈が断る――それが、一番手っ取り早い方法だと考えたのだ。
可奈は、自分との間柄を「まだ名前がついていない」と言ったそうだ。
「まだ」名前がついていない――それはつまり、「いずれ名前がつくかもしれない」ということを意味する。
自分と可奈の間に名前がつくかどうかはまだわからない。
けれど、可奈は、数年ぶりに会った級友に告白されて、それをすぐに受け入れることはしないだろう。
想の脳裏に、「ありがとう、でも、ごめん」と頭を下げる可奈の姿が浮かんだ。
「燈馬! 何してんだよ、対戦するぞ!」
呼ばれて振り向くと、いつの間にかロキが勝手にゲームを取り出してスタンバイしている。
あまりツッコまれなかったことを安堵しつつ、想は苦笑した。
「ロキ、まさかゲームしに日本に来たわけじゃないよね?」
「そうだっつったら?」
ロキが再びにやりと笑う。
今日は何時に寝られるんだろう……。
明日、剣道部の朝練がないことを感謝しながら、想はコントローラを手に取った。
□あとがき□
26巻「夏のタイムカプセル」より。
辛島君はきっと小学生時代からモテたと思うんだけど、新田君もカッコ良くなってたらいいなあ! という妄想。
で、それに燈馬君がヤキモチ妬いたらもっといい!←ちっとも妬いとりませんがな。
可奈と想は通学路にある書店から出てきた。
「あーもう、どうして発売日って重なるのかな」
「またこんなにマンガ買って。後々『お小遣いが足りない』って言っても知りませんよ」
文句を言いながらも満足げな可奈に、想は苦言を呈す。
が、可奈は鼻歌を歌いながら聞き流した。
ちなみに、何冊ものマンガが入った書店の紙袋を持っているのは想だ。
「――あれ、水原?」
そんな2人に、声がかかった。
見ると、サッカーの強豪で知られる、隣町の学校の制服を着た男子高生2人だった。
2人ともすらりと背が高く、日に焼けている。
1人は赤い髪をして、1人は黒髪だ。
誰だろう、と記憶を辿った可奈の頭で、光が弾けた。
「もしかして、辛島君?」
赤い髪をした少年は「そのとおり」と笑った。
「えっと、こっちの子は――」
思い出せない可奈に、黒髪の少年は笑うばかりで、辛島はにやりと笑う。
「こいつは新田。覚えてるか?」
「え、新田君!? うそ、全然わかんないよ! 別人じゃん!」
「お前、変わんねーな。本人だって」
可奈の遠慮ない言葉に、辛島も苦笑する。
「ま、わかんないのも仕方ないけどな。こいつ、変わったもん。
オレら、偶然なんだけど、あん時の転校先同じでさ。新田も、向こうでサッカー始めたんだよ。最初は練習がキツくて泣いてたくせに、今ではレギュラーだもんな」
「そうなんだー」
「咲坂高校にやったら強い女剣士がいるって噂に聞いたけど、やっぱお前のことだったんだな」
初めて新田が口を開いた。
小学生の頃からは想像つかないけれど、低く落ち着いた声に「お前」という言葉はしっくり馴染んでいた。
「で、こっちは? オレらと学校違ったよな?」
辛島の言葉に、新田や可奈も想を見る。
「ああ、燈馬君は、高校からだよ」
「カレシ?」
「ち、違うよ!」
辛島は今度は「イシシ」と笑う。
辛島は、可奈の記憶と変わっていなかった。
「立ち話もなんだから、どっか行かねえ? オレ、腹ペコなんだ」
「そうだね、少し行った所にファミレスが……」
「ほーら、やっぱり! オレの推理は正しかった!」
「ロキ!」
そこへ、ロキが突然現れた。
「いつ日本へ?」
「今日だよ、今! マンションに行ったら、お前いねぇんだもん。けど、授業は終わってるはずだから、学校への道順を辿ったら水原と一緒のところに会えると思ったぜ。ドンピシャだ」
「またそんな。事前に連絡くれればいいのに」
「いーのいーの! こうやってちゃんと会えたんだからよ!」
そんなやりとりの後、ロキは辛島と新田を見た。
「で、そっちは? 水原がナンパされ中? 燈馬、何やってんだよ」
「そんなんじゃないよ。2人とも、水原さんと小学生のときのクラスメイトなんだ。
――では水原さん、僕達はここで。マンガ、お返ししますね」
そう言って紙袋を渡す想の腕を可奈は引っ張る。
「え、燈馬君も行こうよ」
「何言ってるんですか。辛島君や新田君と積もる話もあるでしょう。ロキも来ていることですし」
「そうだけど……」
「じゃ、また明日」
「――あ、明日は朝練ないからね!」
ロキを促して立ち去る想の背中に声をかけると、想は振り返ってにっこり笑った。
「なあ、いいのかよ、野郎2人のところに水原置いてきて」
「2人とも水原さんの幼友達って言ったろ? 僕達は部外者なんだから」
想のマンション。
居間に座るなり、ロキは行儀悪く頬杖をついて、口を尖らせた。
「けどよ、あの2人、絶対、水原に気があるって。これはからかってるわけじゃなくて」
そんなことは、想にもわかっていた。
――2人が転校したのは、親の転勤が理由ではない。
ということは、引越し先がさほど遠方ではないことは予想していた。
子どもにとっては今生の別れに思えても、高校生となった今では、大した距離ではない。
現に、2人とも着ていた制服の高校は、電車で20分も離れていないところにある。
隣町と比べれば確かにこちらの方が栄えてはいるが、渋谷や新宿にも近い。遊びに出るなら、そちらに行くだろう。
わざわざここに来たのは、もしかしたら可奈と会う偶然を求めていたのではないか――辛島が可奈をすぐに見分けて声をかけたこと、「咲坂高校の女剣士」と聞いて可奈だと思っていたことから、確信を持っている。
――そして、香坂が言ったように、2人が可奈を好きだったことも。
きっと2人とも、可奈にいつ会っても良いように男を磨いていたことだろう。
特に新田は相当な努力をしたはずだ。
想は、自分に向けられた複雑な色の視線を思い浮かべた。
「いいんだよ」
想が澄まして答えると、ロキはにやりと笑う。
「水原に限って浮気はない、大丈夫、ってか?」
「そんなんじゃないよ」
そんなんじゃない。
ただ、2人には、可奈を諦めてもらわなければ。
そんな思惑があって、可奈をあの場に残したのだ。
おそらく、2人にとって可奈は初恋の相手だろう。
それをすでに思い出にして新しい恋を始めているなら問題ないのだが、2人の自分を見る目を考えると、まだ可奈のことを忘れてはいない。
それならば、自分がいない状況を作って可奈に告白させ、それを可奈が断る――それが、一番手っ取り早い方法だと考えたのだ。
可奈は、自分との間柄を「まだ名前がついていない」と言ったそうだ。
「まだ」名前がついていない――それはつまり、「いずれ名前がつくかもしれない」ということを意味する。
自分と可奈の間に名前がつくかどうかはまだわからない。
けれど、可奈は、数年ぶりに会った級友に告白されて、それをすぐに受け入れることはしないだろう。
想の脳裏に、「ありがとう、でも、ごめん」と頭を下げる可奈の姿が浮かんだ。
「燈馬! 何してんだよ、対戦するぞ!」
呼ばれて振り向くと、いつの間にかロキが勝手にゲームを取り出してスタンバイしている。
あまりツッコまれなかったことを安堵しつつ、想は苦笑した。
「ロキ、まさかゲームしに日本に来たわけじゃないよね?」
「そうだっつったら?」
ロキが再びにやりと笑う。
今日は何時に寝られるんだろう……。
明日、剣道部の朝練がないことを感謝しながら、想はコントローラを手に取った。
□あとがき□
26巻「夏のタイムカプセル」より。
辛島君はきっと小学生時代からモテたと思うんだけど、新田君もカッコ良くなってたらいいなあ! という妄想。
で、それに燈馬君がヤキモチ妬いたらもっといい!←ちっとも妬いとりませんがな。
バレンタインデー(2009)
- 2012/12/30 (Sun)
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デパートの特設売り場。
バレンタインデーを目前にして、たくさんの商品にたくさんの女性が集まっている。
可奈は売り場をざっと見て回った後、ウロウロと店内を行き来し、気になるものを手にとっては戻し手にとっては戻しと、かれこれ1時間程悩んでいた。
せっかくだから、驚かせたいし、喜んで欲しい。
けれど。
経歴や彼の友人などから考えても、高級なものを食べ慣れているだろうことは容易に想像がつく。
その上。
――あいつの好みはよくわかんないんだよっ。
可奈は壁に拳を打ち付けたいのを我慢して、売り場を出た。
悩んだけれど、決められなかった。
最初に脳裏に浮かんだチョコレート――それは、おすそ分けでもらったときに、ひと口食べて涙が出るほど感動した、某有名ホテルのパティシエが作った「ショコラ」。
当然、値段も張る。
実際に昨日行ってみて、あまりの値段に驚き何も買わずに出てきてしまった。
しかし、やはり、あのチョコしか考えられない。
可奈は腹をくくって、再度、ホテルのラウンジへと向かった。
13日の放課後。
「あれ、燈馬君は?」
近くにいたクラスメイトに聞いてみたが、「帰ったみたいだよ」との返事
「え、そうなの? なぁんか、最近機嫌悪いんだよね。どうしたんだろ?」
「機嫌悪いの?」
「燈馬君が?」
香坂と梅宮が信じられない、といった声音を出す。
「いつもと一緒だったよねえ?」
「うん、ふつーだった」
「嘘、いつもと全然違ったじゃん! ここんとこ、ずっとむすっとしちゃってさ」
「……そんなことわかるの、アンタだけだって」
バレンタインデー当日。
想に連絡しようとして結局できなかった可奈は、想のマンションに向かっていた。
別に呼び出すつもりはなく、ポストに入れてメールをしておけば、不審物と間違われて捨てられることもないだろうと踏んだのである。
そもそも直接渡すことも想定してなかった――というか、張り切ってチョコを用意したものの、義理チョコと思われるのも本命チョコと思われるのも違う気がしているのだ。
なんてことをつらつらと考えながら歩いていると、マンションの前でばったり想と出くわしてしまった。
「お、おす」
「どうも」
「どっか行くの?」
「ええ。水原さんは?」
「うん、私もちょっとね」
言いながら、この場でチョコを渡してしまおうか、とも思った。
が、やはり想の機嫌は悪そうで……予定通りポストに入れようとマンションに視線をやる。
「僕に用事があったんじゃないんですか?」
可奈の視線を追いながら想が言う。
「そうなんだけど、でかけるんでしょ? いいよ、大したことじゃないし」
「そうですか」
じゃあ、と立ち去る想を可奈は思わず呼び止めた。
「えーっと、これ! いつも勉強みてもらったりしてるから!」
そう言って、包みを差し出した。
「今日、バレンタインデーでしょ?」
「ありがとうございます。前に聞いたことがあります。日本のバレンタインデーは欧米とは違うって」
「アメリカではどうなの?」
「恋人同士でプレゼントをしあうんですよ。花束だったりカードだったり。チョコとは限らないです」
「へー……って、恋人同士!?」
「日本にはいろんな意味があるんですよね。愛の告白だったり、お世話になっている人へのお歳暮代わりだったり。ちゃんとわかってるから大丈夫です」
想は言うが、可奈の心中は複雑である。
けれど、否定する言葉も持ち合わせていない。
「ねえ、最近、何で機嫌悪いの?」
「それは……」
「何?」
「……昨日、皆さんに何か包みを配っていたでしょ?」
恐らく、義理チョコ代わりのクッキーのことだろう。
予算オーバーのチョコを買ったせいで、義理チョコや友チョコが用意できなくなってしまった。
仕方がないので、家にある材料で作ったチョコクッキーを100円ショップのラッピング材で包むことにした。
それを昨日、クラスメイトや部活仲間、先生などに配ったのだ。
「朝一番に会ったのに、僕にはなかったなあと」
可奈は目をぱちくりさせた。
「それに最近、放課後はまっすぐ帰るし、部活のない休日も出てこなくなりましたし」
それは予算オーバーのチョコを……以下略。
しかし、それを説明するのは憚られた。
そしてそれよりも……。
「何それ。もしかして、拗ねてたの?」
「そんなんじゃありませんが」
「へえ?」
少しむくれる想を可奈は少し笑った後、さっきは聞けなかったことを聞いてみた。
「ね、どこ行くの?」
「買い物に……実は、気づいたら冷蔵庫の中が空になってまして」
「またぁ!?」
「すみません。また、です」
「しょうがないなあ。じゃあ、可奈ちゃんが美味しいご飯作ってあげるよ」
「お願いします」
こうして2人はスーパーへと向かった。
――チョコの「意味」は、この感情に名前がつくまでのお楽しみ、ということで。
□あとがき□
セーフ! 当日までにアップできました!
2009年のバレンタインデーは土曜日でした^^
バレンタインデーを目前にして、たくさんの商品にたくさんの女性が集まっている。
可奈は売り場をざっと見て回った後、ウロウロと店内を行き来し、気になるものを手にとっては戻し手にとっては戻しと、かれこれ1時間程悩んでいた。
せっかくだから、驚かせたいし、喜んで欲しい。
けれど。
経歴や彼の友人などから考えても、高級なものを食べ慣れているだろうことは容易に想像がつく。
その上。
――あいつの好みはよくわかんないんだよっ。
可奈は壁に拳を打ち付けたいのを我慢して、売り場を出た。
悩んだけれど、決められなかった。
最初に脳裏に浮かんだチョコレート――それは、おすそ分けでもらったときに、ひと口食べて涙が出るほど感動した、某有名ホテルのパティシエが作った「ショコラ」。
当然、値段も張る。
実際に昨日行ってみて、あまりの値段に驚き何も買わずに出てきてしまった。
しかし、やはり、あのチョコしか考えられない。
可奈は腹をくくって、再度、ホテルのラウンジへと向かった。
13日の放課後。
「あれ、燈馬君は?」
近くにいたクラスメイトに聞いてみたが、「帰ったみたいだよ」との返事
「え、そうなの? なぁんか、最近機嫌悪いんだよね。どうしたんだろ?」
「機嫌悪いの?」
「燈馬君が?」
香坂と梅宮が信じられない、といった声音を出す。
「いつもと一緒だったよねえ?」
「うん、ふつーだった」
「嘘、いつもと全然違ったじゃん! ここんとこ、ずっとむすっとしちゃってさ」
「……そんなことわかるの、アンタだけだって」
バレンタインデー当日。
想に連絡しようとして結局できなかった可奈は、想のマンションに向かっていた。
別に呼び出すつもりはなく、ポストに入れてメールをしておけば、不審物と間違われて捨てられることもないだろうと踏んだのである。
そもそも直接渡すことも想定してなかった――というか、張り切ってチョコを用意したものの、義理チョコと思われるのも本命チョコと思われるのも違う気がしているのだ。
なんてことをつらつらと考えながら歩いていると、マンションの前でばったり想と出くわしてしまった。
「お、おす」
「どうも」
「どっか行くの?」
「ええ。水原さんは?」
「うん、私もちょっとね」
言いながら、この場でチョコを渡してしまおうか、とも思った。
が、やはり想の機嫌は悪そうで……予定通りポストに入れようとマンションに視線をやる。
「僕に用事があったんじゃないんですか?」
可奈の視線を追いながら想が言う。
「そうなんだけど、でかけるんでしょ? いいよ、大したことじゃないし」
「そうですか」
じゃあ、と立ち去る想を可奈は思わず呼び止めた。
「えーっと、これ! いつも勉強みてもらったりしてるから!」
そう言って、包みを差し出した。
「今日、バレンタインデーでしょ?」
「ありがとうございます。前に聞いたことがあります。日本のバレンタインデーは欧米とは違うって」
「アメリカではどうなの?」
「恋人同士でプレゼントをしあうんですよ。花束だったりカードだったり。チョコとは限らないです」
「へー……って、恋人同士!?」
「日本にはいろんな意味があるんですよね。愛の告白だったり、お世話になっている人へのお歳暮代わりだったり。ちゃんとわかってるから大丈夫です」
想は言うが、可奈の心中は複雑である。
けれど、否定する言葉も持ち合わせていない。
「ねえ、最近、何で機嫌悪いの?」
「それは……」
「何?」
「……昨日、皆さんに何か包みを配っていたでしょ?」
恐らく、義理チョコ代わりのクッキーのことだろう。
予算オーバーのチョコを買ったせいで、義理チョコや友チョコが用意できなくなってしまった。
仕方がないので、家にある材料で作ったチョコクッキーを100円ショップのラッピング材で包むことにした。
それを昨日、クラスメイトや部活仲間、先生などに配ったのだ。
「朝一番に会ったのに、僕にはなかったなあと」
可奈は目をぱちくりさせた。
「それに最近、放課後はまっすぐ帰るし、部活のない休日も出てこなくなりましたし」
それは予算オーバーのチョコを……以下略。
しかし、それを説明するのは憚られた。
そしてそれよりも……。
「何それ。もしかして、拗ねてたの?」
「そんなんじゃありませんが」
「へえ?」
少しむくれる想を可奈は少し笑った後、さっきは聞けなかったことを聞いてみた。
「ね、どこ行くの?」
「買い物に……実は、気づいたら冷蔵庫の中が空になってまして」
「またぁ!?」
「すみません。また、です」
「しょうがないなあ。じゃあ、可奈ちゃんが美味しいご飯作ってあげるよ」
「お願いします」
こうして2人はスーパーへと向かった。
――チョコの「意味」は、この感情に名前がつくまでのお楽しみ、ということで。
□あとがき□
セーフ! 当日までにアップできました!
2009年のバレンタインデーは土曜日でした^^
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