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たちばな庵

二次創作メインのブログです。 男女CPオンリー。 ご注意ください。

カテゴリー「QED」の記事一覧

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大つごもりデート

 大晦日。
 想と可奈は、都内のコンサートホールから他の客と共に外に出た。
 会場内の空調が少し暑かったせいもあって、頬が少し火照っている。
 可奈は大きく伸びをして肩をこきこきと鳴らすと、手に持っていたコートを着込んだ。
「やはり、第3楽章は少しうとうとしていましたね? 眠くなると言っておいたのに」
 想に顔を覗き込まれて、可奈は少しふくれた。
「ちょっとだけでしょー。いちいちチェックするのやめてよ」
「すみません」
 想は笑って答える。
「でもさ、第九って思ってた曲と違ってた。『ハーレルヤ ハーレルヤ♪』ってあれかと思ってた」
「それはヘンデルのメサイアですよ。クリスマスによく聞く曲です」
 そう言いながら、第九を口ずさんでいる。
 ……鼻歌混じりなので、特に害が及ぶほどではない。
 お気に入りの指揮者、お気に入りのオーケストラの演奏がよほど素晴らしかったようで、すこぶる機嫌が良い。
 曲の感想を言い合っている2人の間を、冷たい風が吹き抜けた。
「寒っ、早く帰ろう。お節作るの、手伝わなきゃ。燈馬君も来るでしょ?」
「お邪魔します。警部のお相手、ですね?」
「へへっ、バレたか。夜は、父さんとK-1観る予定なんだ。その後、年越し参りに行こう」
「はい」


 駅へと向かいながら、可奈はそっと想に呟いた。
「じゃあ、次はその『メサイア』っての聞きたい」
「わかりました」
「楽しみにしてるね」
 来年の約束にどちらともなく微笑み合って。
 2人は家路へと急いだ。


□あとがき□
 久々の更新!
 皆様、良いお年を & 今後ともよろしくお願い致します!

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初めての髪、初めての表情(かお)

 可奈は今日も、放課後、想のマンションに立ち寄った。
 想はパソコンの前、可奈は床に寝転んでマンガを読んでいた。
 可奈がふと気配を感じて顔を上げると、想の視線とぶつかった。
「……何?」
 何となくもそもそと起き上がり、思わず正座などしてしまう。
「髪」
「は?」
「髪に触ってもいいですか?」
 ……急に、何を言うんだろう。もしかして、聞き間違い?
 気を取り直して、もう一度。
「ごめん、も一回。何?」
 しかし可奈の期待に反して、想は同じ言葉を繰り返した。
「髪に触ってもいいですか?」
「なっ!? ななな、何で!?」
 激しく動揺する可奈に反して、想のテンションは変わらない。
「キレイだなと思って。ダメですか?」
「だ、ダメってわけじゃないけど」
「じゃ、失礼して」
 想が席を立って、可奈の隣に座る。
 その手が、可奈の髪にそっと触れた。
「思ったよりも柔らかいんですね」
「そそ、そおお?」
 自分の髪と想の手が、首筋をかすめてくすぐったい。
「……水原さん、いい匂いがしますね」
 突然、髪がつん、と引っ張られたのでそちらを見ると、想が髪の先を唇に近づけようと……!
「ちょ……っ! 何やってんの!」
「何って、コロンじゃなさそうなので、何の匂いか確かめたかったのですが」
「そんなのつけてないよ! 多分、シャンプーだよ」
 言いながら、髪を想の手から奪還した。
「もういいでしょ? お終い!」
 対する想は、一瞬驚いた後、すぐに無表情になった。
「なんでですか? 僕はもういいなんて言ってません」
 怒っているのがわかる。正直怖い……でも恥ずかしい!
「何ででも! もう終わり!」
「納得できません」
 詰め寄られて顔が近い。
 可奈は顔を背けながら「終わりったら終わり」を繰り返す。
 けれど想も負けてはいない。納得のいく説明を求めてどんどん迫ってくる。
「恥ずかしいんだってば! もうやめてよぉ」
 半ば押し倒された状態になって可奈が半泣きで訴えると、想の動きがぴたりと止まった。
 我に返ったようだ。
「あ……、すみません、水原さん。大丈夫ですか?」
 想が身を起こして、可奈に手を差し伸べる。
「燈馬君のばかっ」
 可奈は想の手を振り払って自分で起き上がった。
「本当にすみませんでした。……泣かないでください」
「泣いてないっ」
「でも、ほら」
 想がそっと可奈の目尻をなで、指についた雫を見せてきた。
 ~~~~この男はっ!
「泣いてるのなんか自分でわかってるよ! 泣いてないって言ったら見て見ぬふりしなさいよ、デリカシーなし男!」
「す、すみません」
 想はびくりと手を引っ込め、可奈の目からは堪らず涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「でも……」
「何だよっ」
「泣き顔が可愛いので、見て見ぬふりはできません」
「だ……っ、黙れぇっ!」


 ――後はご想像どおり。
 想は頬についた手形が3日は消えなかった。


□あとがき□
 燈馬君はきっとこれで味をしめて、また可奈ちゃんを泣かせることでしょう。
 今回は天然、次回からはきっと確信犯(笑)。

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【お題】ワガママ姫さまの5つの命令

5.まだまだ全然足りないの


 想は信じられない思いで目の前に座る少女を見つめた。
 少女は美味しそうにリゾットを頬張っている。
 それは、よくある微笑ましい光景だろう。
 しかし。
 彼女の傍らには、食べ終えて重ねた皿がうず高く重ねられているのだ。


 3月13日の放課後。
隣を歩いていた可奈が突然立ち止まった。
「……燈馬君、私に何か言うことないの?」
「はい?」
 午後から笑顔がないな、と思ってはいたのだが、何か怒らせるようなことをしただろうか。
 必死で考えるが、思い当たらない。
「明日は何の日!?」
「明日、ですか? 3月14日……1953年に吉田内閣解散、俗に言う『バカヤロー解散』……違いますよね。あ、ジョヴァンニ・スキアパレッリの生まれた日」
「誰それ」
「天文学者です。と、言うことは、それも違うんですね」
 わけがわからない想に、可奈はますますムクれていく。
「そんな人知らないよ! 違うでしょ、明日はホワイトデーでしょう!?」
「ホワイトデー、って何ですか?」
 想は、可奈の顎が外れやしないかと心配した。
 それくらい、あんぐりと口を開けたのだ。
「……信じらんない。何でバレンタインデーを知っててホワイトデーを知らないのよ。
 ホワイトデーは、バレンタインデーのお返しをする日なの」
「そうなんですか。そんな日が」
 想は驚いた。
 日本でバレンタインデーといえば女性から男性にチョコを贈る日と聞いていたが、そのお返しの日が用意されていたとは。
 欧米では、男女関係なしにバレンタインデー当日に贈り物をし合うのだが。
「それはすみませんでした。ええっと、お返しはどうしたらいいんですか?」
 素直に謝ったら、少しは機嫌が直ったのだろうか、可奈の表情が変わった。
「チョコをもらった男の子は、女の子の好きなものを好きなだけ、何でもご馳走するんだよ」
「『何でも』ですか」
「やだ、そんな高いもの言ったりしないから心配しないで。ブッフェで手を打ったげる」
「わかりました。それが明日なんですね? 何時にしますか?」
「11時に、マンションに行くよ」
「わかりました」


 そして、ホワイトデー当日。
 ホテルのランチブッフェで、制限の2時間、ほぼ全種類の料理を平らげた可奈は満足そうに手を合わせた。
「ご馳走様でした。美味しかった!」
「それは良かったです。さて、これからどうしましょうか。どこか行きたいところ、ありますか?」
 会計を済ませ、レストランを出ながら想が言うと、可奈がキョトンとした。
「今から、デザートブッフェだよ」
「まだ食べるんですか!?」
「何よ、失礼ね。女の子にとって甘いものは別腹なの! さ、カフェコーナーへ行くよ」


 想は信じられない思いで目の前に座る少女を見つめた。
 少女は美味しそうにケーキを頬張っている。
 それは、よくある微笑ましい光景だろう。
 しかし。
 彼女の傍らには、食べ終えて重ねた皿がうず高く重ねられているのだ。


「水原さん……まさかとは思いますが、今日の夕食は食べるんですか?」
「ん? 食べるよ。当たり前じゃん。育ち盛りだからね!」


□一言ツッコミ
 天然燈馬君と、それをいいことに希望のWDをおねだりする可奈ちゃん(笑)。

 お題配布元:age様

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【お題】ワガママ姫さまの5つの命令

4.このままぎゅっとしてて


 学校からの帰り道。
 可奈と想はいつものように並んで歩いていた。
 もうすっかり陽が落ちて、空には星が瞬いている。
「寒いねえ……」
 可奈が口を開いた。
 寒さで声も震えるほどだ。
「今、冬型の気圧配置が日本中を覆っていますから。まあ、明日には緩むと思いますよ……あれ、水原さん、いつもしている手袋はどうしたんですか?」
 可奈がはあっと両手に息を吹きかけたのを見て、想が聞く。
「今頃気づいたの? 朝、慌ててて忘れたの!」
「そうでしたか」
「あんたね、もうちょっと言い方ってもんがあるでしょ……っ!?」
 そっけない返事に抗議しようとした可奈の語尾が消えた。
 ――想が、可奈の手を包んだのだ。
「……何やってんの?」
「手が冷たそうだな、と思って。ほら、やっぱりこんなに冷えて。もう感覚ないでしょう。何で言わないんですか」
「何でって……」
 まさか、手を温めてくれるなんて思ってもなかったから、なんて言えるはずもなく。
 照れ臭いのもあって、代わりに別のことを言った。
「こ、こんな両手つないでたら歩けないじゃん。早く帰ろうよ、寒いし」
「そうですね。マンションに寄って行きますか? 温まってから帰った方が良さそうですし。手袋もお貸ししますよ」
「……うん」
 可奈が素直に頷くのを見て、想が手を離す――その前に、可奈が想の手を握った。
「水原さん?」
「あ、えーっと、その――何も、両方離すことないでしょ? 片手なら何の支障もなく歩けるわけだし……って、嫌ならいいけどっ!」
 一転して、可奈は想の手を振りほどこうとした。
 が、今度は想が可奈の手をぎゅっと握り返してニッコリと笑う。
「そうですね」

 すでに可奈の体温はこれ以上ないほどに上昇していて、想のマンションに寄る必要もないように思えるけれど。
 何も言わずに想に手をひかれたまま歩き始めた。

 ――この鼓動がバレてませんように、と祈りながら。


□一言ツッコミ
でも、当然バレてます(笑)。

 お題配布元:age様

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【お題】ワガママ姫さまの5つの命令

3.アタシが作ったんだから全部食べなきゃダメ


「さて、ではいただきまーすっ」
 想のマンション。
 今日も可奈が遊びに来ていて、昼食は可奈の手作りだ。
 メニューはお好み焼き。
 ソースの香ばしい匂いが食欲をそそる。
「……っ!?」
 お好み焼きを口に入れた想が、目を白黒させながら口元を手で押さえた。
「どうしたの?」
 可奈は、何か失敗したのかと一口食べてみる。
「美味しくできてるじゃない」
 不思議そうに言う可奈に、想は口の中身を何とか飲み下し、お茶を飲んでから皿を指差した。
「これ、何が入ってるんですか!?」
「何って……、キャベツと豚肉と納豆と……」
「納豆っ!?」
 いつもの想らしくないかん高い声に、今度は可奈が驚く。
「あれ、もしかして、納豆嫌い?」
「匂いがどうしてもダメで……。お好み焼きにも入れるものなんですか……?」
「意外に何でも合うんだよ。オムレツ、サラダ、パスタ、ピザ……」
 指折り数える可奈を、想は信じられない、といった顔で見つめる。
「何よ、その目は。発酵食品は体にいいんだよ」
「それはわかっているんですが……納豆はちょっと……」
「まさか、私が作ったものを残す、なんて言わないよね? そんなことしたら、もう燈馬君のご飯なんて二度と作らないからね?」
 可奈の笑顔が怖い。
「う……。い、いただきます……」
「はいどうぞ。好き嫌いは克服しなきゃね♪」


□一言ツッコミ
オフィシャルでは燈馬君が納豆を嫌い、という描写はありません。

 お題配布元:age様

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