たちばな庵
二次創作メインのブログです。 男女CPオンリー。 ご注意ください。
手をつなごう
- 2012/12/30 (Sun)
- キス早 |
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放課後。
廊下を歩いていると、珍しく文乃さんが教室に残っているのが見えた。
窓際に立って、外を眺めている。
「何見てんです?」
「っわあぁっ! びっくりした!」
ひょっこり近づいた僕に、文乃さんはびくっと振り返った。
「鉄兵くんのお迎え、いいんですか?」
「良くない! 行かなきゃ! わわ、鉄兵ごめん、すぐに行くからね!」
時計を指差すと、文乃さんはよほど慌てたのだろう、ここにはいない鉄兵くんに謝りながらカバンをつかんでバタバタと出て行った。
文乃さんを見送って、僕は再び外を見た。
部活に励む野球部やサッカー部、校外ランニングから帰ってきたらしいバレー部、そして正門から出て行く生徒たち――その中にはダントンさんと……翔馬。
――文乃さん、物憂げな目で、誰を見ていたの?
「参考書?」
「うん、慌ててて、教室に忘れてきたみたいで」
夕食時、文乃さんが参考書を貸して欲しいと僕に申し出た。
普段は問題集から目を離さないのに。
――誰を見ていて参考書を忘れたの?
僕のどこかで、カチリとスイッチの入る音がした。
「文乃さん、今日、教室の窓から何を見てたの?」
「ちょっ、ちょっと、先生! ご飯中っ」
僕は箸を置いて、後ろから文乃さんを抱きすくめた。
「黒沢くんか、翔馬? それとも、また違う誰か?」
「何それ。違うし!」
「じゃあ誰?」
「誰とかじゃなくて……」
「ん?」
追及の手を緩めない僕に観念したのか、文乃さんは真っ赤になってぼそぼそ話し始めた。
「手、つなげていいなって……」
「手?」
「手つないで帰ってる人たちがいたでしょ? 羨ましいなって」
「……」
「……おかしいよね! 毎日こうやってイチャイチャしてるのに、今さら手をつなぎたいなんて」
――ああもう!
僕は堪らなくなって、文乃さんを抱き締めた。
夕食後、文乃さんと鉄兵くんを散歩に誘い出した。
まだあんまり寒くないし、月も綺麗だ。
目に入るものを英単語で言い合いながら、公園へと向かう。
滑り台へ走る鉄兵くんに注意を促して、隣を歩く文乃さんの手をそっと握った。
文乃さんが僕を見る。
「この時間なら、誰も見てないでしょ」
片目をつぶって見せると、文乃さんは嬉しそうに「うん」と笑った。
「卒業したら、1日中手をつないでデートしようね」
「うん」
「楽しみにしてる」
それまで忘れないで。僕の手の温度を。
僕も忘れない。君の手のぬくもりを――。
廊下を歩いていると、珍しく文乃さんが教室に残っているのが見えた。
窓際に立って、外を眺めている。
「何見てんです?」
「っわあぁっ! びっくりした!」
ひょっこり近づいた僕に、文乃さんはびくっと振り返った。
「鉄兵くんのお迎え、いいんですか?」
「良くない! 行かなきゃ! わわ、鉄兵ごめん、すぐに行くからね!」
時計を指差すと、文乃さんはよほど慌てたのだろう、ここにはいない鉄兵くんに謝りながらカバンをつかんでバタバタと出て行った。
文乃さんを見送って、僕は再び外を見た。
部活に励む野球部やサッカー部、校外ランニングから帰ってきたらしいバレー部、そして正門から出て行く生徒たち――その中にはダントンさんと……翔馬。
――文乃さん、物憂げな目で、誰を見ていたの?
「参考書?」
「うん、慌ててて、教室に忘れてきたみたいで」
夕食時、文乃さんが参考書を貸して欲しいと僕に申し出た。
普段は問題集から目を離さないのに。
――誰を見ていて参考書を忘れたの?
僕のどこかで、カチリとスイッチの入る音がした。
「文乃さん、今日、教室の窓から何を見てたの?」
「ちょっ、ちょっと、先生! ご飯中っ」
僕は箸を置いて、後ろから文乃さんを抱きすくめた。
「黒沢くんか、翔馬? それとも、また違う誰か?」
「何それ。違うし!」
「じゃあ誰?」
「誰とかじゃなくて……」
「ん?」
追及の手を緩めない僕に観念したのか、文乃さんは真っ赤になってぼそぼそ話し始めた。
「手、つなげていいなって……」
「手?」
「手つないで帰ってる人たちがいたでしょ? 羨ましいなって」
「……」
「……おかしいよね! 毎日こうやってイチャイチャしてるのに、今さら手をつなぎたいなんて」
――ああもう!
僕は堪らなくなって、文乃さんを抱き締めた。
夕食後、文乃さんと鉄兵くんを散歩に誘い出した。
まだあんまり寒くないし、月も綺麗だ。
目に入るものを英単語で言い合いながら、公園へと向かう。
滑り台へ走る鉄兵くんに注意を促して、隣を歩く文乃さんの手をそっと握った。
文乃さんが僕を見る。
「この時間なら、誰も見てないでしょ」
片目をつぶって見せると、文乃さんは嬉しそうに「うん」と笑った。
「卒業したら、1日中手をつないでデートしようね」
「うん」
「楽しみにしてる」
それまで忘れないで。僕の手の温度を。
僕も忘れない。君の手のぬくもりを――。
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無意識の告白
- 2012/12/30 (Sun)
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「あれ、文乃さん、まだ勉強してるの?」
風呂あがり、灯りのもれる和室の襖をそろっと開けると、文乃さんがまだ机に向かっていた。
「うん。キリがついたら、寝ようと思ってたとこ」
なら良いけど、と言って背後から参考書を覗き込む。
「わからないところはない? って、数学じゃないですか……」
参考書とノートに並ぶ数式。
苦手分野だから手助けできないじゃないか。
「そりゃ、英語だけ勉強するわけにいかないじゃん。英語は、明日、図書館でやる予定」
「え?」
――明日、図書館?
「あれ、明日、図書館で勉強するって言ってなかったっけ?」
「――聞いてませんよ」
「ひゃっ」
文乃さんをぎゅっと抱きしめると、可愛らしい声が上がる。
「ちょ……先生!?」
明日は僕も1日家にいられるから、文乃さんと鉄兵くんと3人で「家族団欒」ができると思ってたのになー。
最近、文乃さんは図書館に行くことが増えた。
勉強を頑張ってくれてるのは嬉しいけど、気がかりなことも、ある。
「それは、翔馬と?」
「あ、うん。メグちゃんも一緒だけど。鉄兵も連れてくよ。……や……っ」
どうしようもない焦燥感に襲われて、文乃さんのむき出しになった首筋に唇を這わせる。
僕の腕から逃れようとするけれど、もちろんそんなことはさせない。
「先生? どうしたの?」
文乃さんの声を無視して、耳元で囁いた。
「翔馬の方が良くなっちゃった……?」
「………………は? なっ、何言ってんの!?」
文乃さんはばっとこちらを振り返ると、少し辛そうな顔になった。
あれ、と思っている間に両手が伸びてきて、ふわりと僕を抱きしめる。
「あたしが好きなのは、先生だけだよ」
――!
「うん……ありがとう。ごめん、ちょっと弱気になった」
「何で先生が弱気になるのよ。あたしの方がこんなに好きなのに。だいたい、翔馬くんの方もあたしなんか眼中にないって。――何?」
文乃さんはまだ翔馬の気持ちに気づいてないのか……。
翔馬はライバルだけれど、何か少し可哀想かも。
けど。
敵に塩を送ることなんかもちろんしない。
文乃さんに関して、兄弟も何もあるもんか!
「今の、もう1回言ってください?」
「え? 翔馬くんの方もあたしのことは眼中にない?」
「違ーう。その前」
「その前って――あっ」
「はい、もう1回♪」
「い、言わないよっ」
「えー、残念だなぁ」
でも、そうだね。
「僕の方が、ずーっと文乃さんのこと好きですからねっ」
「ばっ、ばかっ」
風呂あがり、灯りのもれる和室の襖をそろっと開けると、文乃さんがまだ机に向かっていた。
「うん。キリがついたら、寝ようと思ってたとこ」
なら良いけど、と言って背後から参考書を覗き込む。
「わからないところはない? って、数学じゃないですか……」
参考書とノートに並ぶ数式。
苦手分野だから手助けできないじゃないか。
「そりゃ、英語だけ勉強するわけにいかないじゃん。英語は、明日、図書館でやる予定」
「え?」
――明日、図書館?
「あれ、明日、図書館で勉強するって言ってなかったっけ?」
「――聞いてませんよ」
「ひゃっ」
文乃さんをぎゅっと抱きしめると、可愛らしい声が上がる。
「ちょ……先生!?」
明日は僕も1日家にいられるから、文乃さんと鉄兵くんと3人で「家族団欒」ができると思ってたのになー。
最近、文乃さんは図書館に行くことが増えた。
勉強を頑張ってくれてるのは嬉しいけど、気がかりなことも、ある。
「それは、翔馬と?」
「あ、うん。メグちゃんも一緒だけど。鉄兵も連れてくよ。……や……っ」
どうしようもない焦燥感に襲われて、文乃さんのむき出しになった首筋に唇を這わせる。
僕の腕から逃れようとするけれど、もちろんそんなことはさせない。
「先生? どうしたの?」
文乃さんの声を無視して、耳元で囁いた。
「翔馬の方が良くなっちゃった……?」
「………………は? なっ、何言ってんの!?」
文乃さんはばっとこちらを振り返ると、少し辛そうな顔になった。
あれ、と思っている間に両手が伸びてきて、ふわりと僕を抱きしめる。
「あたしが好きなのは、先生だけだよ」
――!
「うん……ありがとう。ごめん、ちょっと弱気になった」
「何で先生が弱気になるのよ。あたしの方がこんなに好きなのに。だいたい、翔馬くんの方もあたしなんか眼中にないって。――何?」
文乃さんはまだ翔馬の気持ちに気づいてないのか……。
翔馬はライバルだけれど、何か少し可哀想かも。
けど。
敵に塩を送ることなんかもちろんしない。
文乃さんに関して、兄弟も何もあるもんか!
「今の、もう1回言ってください?」
「え? 翔馬くんの方もあたしのことは眼中にない?」
「違ーう。その前」
「その前って――あっ」
「はい、もう1回♪」
「い、言わないよっ」
「えー、残念だなぁ」
でも、そうだね。
「僕の方が、ずーっと文乃さんのこと好きですからねっ」
「ばっ、ばかっ」
9巻 龍せんせいの反省
- 2012/12/30 (Sun)
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ブンちゃんたちの勉強合宿に乱入した帰り道。
無事に見つかった鉄兵を車に乗せて、オレは珍しく落ち込みモードに入っていた。
不注意で鉄兵を危険な目に合わせたのは、これで2度目……いや、3度目?
いくらプライベートとはいえ、保育士なのにイカンだろう……。
鉄兵に何事もなくて良かった。
それにしても。
ブンちゃんは出来たコだなー。
今日のことも、目を離したオレが悪いのに、第一声が「迷惑かけてごめんなさい!」だもんな。
怒るまーくんからもかばってくれて。
自分のことを棚上げして保育園にクレームつけてくるモンスターなんちゃらまがいのおかーさま方を相手にする身としては、新鮮つーか心にしみるっつーか。
信号が赤になったので、ブレーキをかけてハンドルに凭れた。
「……あれはまーくんじゃなくてもホレるよなー」
…………。
「龍せんせい、しんごうかわったよー」
「おっと」
ふと我に返って、アクセルを踏む。
…………。
――あれ。今の、言葉に出て……た?
嫌~な汗が背中を流れた、気がした。
「て……鉄兵? オレ、今、何か言った?」
「なにが?」
――ほっ。心の中の呟きだけだったみたいだ。
いや、本当にブンちゃんにホレたわけじゃないけど、冗談でもそんなことを言おうもんなら……。
………………下手したら沈められちゃうかもしんない………………。
考えるだけでオソロシイ;
「龍せんせい」
「どした?」
「ホレるって、なにー?」
――ぶっ!
「鉄兵」
「なあに?」
「何でも好きなモン買ってやるから、今の言葉は忘れろ。なっ?
何が欲しい? オモチャ屋に寄るか? それともケーキか? 両方でも良いぞ!」
――何としてでも、鉄兵の口をふさがねば。
オレの命がアブない!
無事に見つかった鉄兵を車に乗せて、オレは珍しく落ち込みモードに入っていた。
不注意で鉄兵を危険な目に合わせたのは、これで2度目……いや、3度目?
いくらプライベートとはいえ、保育士なのにイカンだろう……。
鉄兵に何事もなくて良かった。
それにしても。
ブンちゃんは出来たコだなー。
今日のことも、目を離したオレが悪いのに、第一声が「迷惑かけてごめんなさい!」だもんな。
怒るまーくんからもかばってくれて。
自分のことを棚上げして保育園にクレームつけてくるモンスターなんちゃらまがいのおかーさま方を相手にする身としては、新鮮つーか心にしみるっつーか。
信号が赤になったので、ブレーキをかけてハンドルに凭れた。
「……あれはまーくんじゃなくてもホレるよなー」
…………。
「龍せんせい、しんごうかわったよー」
「おっと」
ふと我に返って、アクセルを踏む。
…………。
――あれ。今の、言葉に出て……た?
嫌~な汗が背中を流れた、気がした。
「て……鉄兵? オレ、今、何か言った?」
「なにが?」
――ほっ。心の中の呟きだけだったみたいだ。
いや、本当にブンちゃんにホレたわけじゃないけど、冗談でもそんなことを言おうもんなら……。
………………下手したら沈められちゃうかもしんない………………。
考えるだけでオソロシイ;
「龍せんせい」
「どした?」
「ホレるって、なにー?」
――ぶっ!
「鉄兵」
「なあに?」
「何でも好きなモン買ってやるから、今の言葉は忘れろ。なっ?
何が欲しい? オモチャ屋に寄るか? それともケーキか? 両方でも良いぞ!」
――何としてでも、鉄兵の口をふさがねば。
オレの命がアブない!
浮気疑惑
- 2012/12/30 (Sun)
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「先生ー。この大学の資料って……」
ノックもせずに開けた、「英語科教材室」。
――目に映ったのは、女の子と抱き合う先生の姿、だった。
「ふみ……、梶さん!」
私は無言でドアを閉めて、ダッシュで逃げた。
――その後のことは覚えていない。
気づいたら公園にいて、鉄兵を迎えに行く時間になっていた。
「突然お邪魔して、ごめんなさい」
アパートには帰りたくなくて、訝しげな顔をする鉄兵とトモくんのマンションへやってきた。
トモくんはまだ帰っていなかったけど、トモエちゃんが部屋に入れてくれた。
「いいえ。コーチはもう少しおそくなると思います。ゆっくりしていってください」
トモエちゃんはにっこり笑ってお茶を出してくれる。
「――どうか、したんですか?」
そっと聞かれて、涙が溢れ出した。
辛い胸の内を誰かに聞いて欲しくて、学校で見た光景を話す。
ぐすぐす泣く私に、トモエちゃんはとっても意外なことを言った。
「それは、しかたがないんじゃないでしょうか」
「……え?」
思わず顔をあげると、トモエちゃんは困ったように笑っていた。
「コーチも同じです。他にも教えている選手はたくさんいます。――道場に入ったら、わたしだけのコーチではなくなります」
「……」
「せんせいも、学校に行ったら『先生』ですから、文乃さん以外の人も見なくちゃいけません」
「そうだけど……でも」
――でも、抱きしめなくたっていいと思う。
「文乃さん、わたし、柔道の選手なんですよ」
「? 知ってるよ?」
「そのわたしがルールむしで6年間できなかったことを、せんせいは1週間のけいこだけでやったんですよ」
……トモくんとの、柔道勝負のことだ。
「スタミナとか、体格だけの話じゃないです。あれは、きもちで勝ったんですよ。文乃さんも見てたでしょう?」
私は無言で頷いた。
「あの気迫は、なまはんかなことでは出せません。文乃さんたちを取り戻すためにあんなにボロボロになって戦ったせんせいをうたがうのは、かわいそうです」
――さっきとは違う涙がこぼれて、鉄兵の手をぎゅっと握った。
「しっかりはなしあって、家出はそれからでもおそくないんじゃないでしょうか。
もし浮気だったら、コーチがこんてんぱんにやっつけてくれると思いますよ」
トモエちゃんは笑顔で言うけど……それは血を見ることになるんじゃ。
私は恐ろしいものを感じつつ、立ち上がった。
「……そうだね。ちゃんと、話を聞いてみる。それで浮気だったら、改めてお世話になります」
ペコリと頭を下げて、トモくんのマンションを後にした。
ガチャガチャガチャ、バタン!
――いつになく、乱暴にドアが開けられた。
「文乃さん!?」
走ってきたのか、先生は汗だくで、ジャケットとネクタイを手に持った姿だ。
私はテーブルの前で座ったまま、立ち上がることもせずに先生を出迎えた。
「おかえりなさい」
「良、かった……いてくれて……」
先生は大きく息を吐いて、周りを見回す。
「鉄兵くんは?」
「龍せんせいに預けてある。今から、重要な話をするから。――何のことか、わかるでしょ?」
「はい……」
先生は私の向かい側に正座した。
「――今日、学校で見たアレ、は、どういうこと?」
先生は私の問いに真顔で答える。
「生徒のプライバシーに関わるから、理由は言えない。でも信じて欲しい。誓って、やましいことはしていない」
「誓うって、何に?」
――少しの、沈黙。
先生の真っ直ぐな視線が、私を射抜いた。
「……指輪と、君のご両親に」
「……っ」
思わず、胸元の指輪を握り締めた。
涙が次々湧いて出てくる。
先生が私を優しく抱きしめる。
手が重ねられて、導かれるままにゆっくり開くと、先生は指輪にキスをした。
私の両頬を包んで、おでこに、まぶたに口づける。その後、今度は強く抱きしめられた。
「僕は教師だから、この胸や腕を他の生徒のために使うこともある。
でも、僕の気持ちと唇は、君だけのものだよ」
「うん……」
――本当は、そんなの嫌だって言いたい。先生の全ては私だけのものだって言って欲しい。
でも。
そんな先生だから、好きになったんだ――。
先生の首に手を回して、ぎゅっと力を込めた。
途端に聞こえた「つっ」という声。
「先生?」
先生は痛そうな顔を苦笑に変えた。
「何でもありませんよ」
「何でもないわけないじゃんっ」
「あ、こらっ」
止めるのも聞かず、先生のシャツを無理矢理はだけさせた。
「何これ!?」
すると、先生の首周りにくっきりと残る痣が出てきた。
先生は苦笑を深める。
「実は、アパートには帰ってないかと思って、智之さんのマンションに寄りまして。で……」
「シメられたの!?」
「まあ、そうですね。『文乃がオレのところに来るような何をしたんだ』って」
いやー、オトされそうになるなんて何年ぶりですかねぇ、なんてのん気なこと言ってる。
「ご、ごめんね……」
「いえ、文乃さんを不安にさせてしまったのは事実ですし。それに、半分はヤキモチですよ」
「え?」
「智之さんの前で、文乃さんのことについてトモエさんと堂々と内緒話をしたのも同然ですから」
先生は悪戯っぽく笑う。
「さ、そろそろ鉄兵くんを迎えに行きましょう?」
先生が立ち上がって、手を差し伸べる。
私はその手をとって立ち上がった。
「うんっ」
「おー、来た来た」
龍せんせいの部屋のチャイムを押すと、鉄兵と2人で出迎えてくれた。
「ごめんねー、鉄兵。龍せんせいも、いつもごめんなさい」
鉄兵は先生に抱っこされながら、私と先生を交互に見る。
「ブンちゃとまーくん、なかなおり?」
「うん、仲直りしたよ。鉄兵くんにも心配かけちゃったね」
「よかったね。ケンカはめっよ」
「ハイ。気をつけます」
眉を吊り上げる鉄兵と、それに頭を下げる先生。
その様子をクスクス笑いながら見ている私に、龍先生が囁いた。
「ブンちゃん、まーくんの首のアレ……ちょっとやりすぎじゃない?」
「あっ、あたしじゃなーーーいっ!」
ノックもせずに開けた、「英語科教材室」。
――目に映ったのは、女の子と抱き合う先生の姿、だった。
「ふみ……、梶さん!」
私は無言でドアを閉めて、ダッシュで逃げた。
――その後のことは覚えていない。
気づいたら公園にいて、鉄兵を迎えに行く時間になっていた。
「突然お邪魔して、ごめんなさい」
アパートには帰りたくなくて、訝しげな顔をする鉄兵とトモくんのマンションへやってきた。
トモくんはまだ帰っていなかったけど、トモエちゃんが部屋に入れてくれた。
「いいえ。コーチはもう少しおそくなると思います。ゆっくりしていってください」
トモエちゃんはにっこり笑ってお茶を出してくれる。
「――どうか、したんですか?」
そっと聞かれて、涙が溢れ出した。
辛い胸の内を誰かに聞いて欲しくて、学校で見た光景を話す。
ぐすぐす泣く私に、トモエちゃんはとっても意外なことを言った。
「それは、しかたがないんじゃないでしょうか」
「……え?」
思わず顔をあげると、トモエちゃんは困ったように笑っていた。
「コーチも同じです。他にも教えている選手はたくさんいます。――道場に入ったら、わたしだけのコーチではなくなります」
「……」
「せんせいも、学校に行ったら『先生』ですから、文乃さん以外の人も見なくちゃいけません」
「そうだけど……でも」
――でも、抱きしめなくたっていいと思う。
「文乃さん、わたし、柔道の選手なんですよ」
「? 知ってるよ?」
「そのわたしがルールむしで6年間できなかったことを、せんせいは1週間のけいこだけでやったんですよ」
……トモくんとの、柔道勝負のことだ。
「スタミナとか、体格だけの話じゃないです。あれは、きもちで勝ったんですよ。文乃さんも見てたでしょう?」
私は無言で頷いた。
「あの気迫は、なまはんかなことでは出せません。文乃さんたちを取り戻すためにあんなにボロボロになって戦ったせんせいをうたがうのは、かわいそうです」
――さっきとは違う涙がこぼれて、鉄兵の手をぎゅっと握った。
「しっかりはなしあって、家出はそれからでもおそくないんじゃないでしょうか。
もし浮気だったら、コーチがこんてんぱんにやっつけてくれると思いますよ」
トモエちゃんは笑顔で言うけど……それは血を見ることになるんじゃ。
私は恐ろしいものを感じつつ、立ち上がった。
「……そうだね。ちゃんと、話を聞いてみる。それで浮気だったら、改めてお世話になります」
ペコリと頭を下げて、トモくんのマンションを後にした。
ガチャガチャガチャ、バタン!
――いつになく、乱暴にドアが開けられた。
「文乃さん!?」
走ってきたのか、先生は汗だくで、ジャケットとネクタイを手に持った姿だ。
私はテーブルの前で座ったまま、立ち上がることもせずに先生を出迎えた。
「おかえりなさい」
「良、かった……いてくれて……」
先生は大きく息を吐いて、周りを見回す。
「鉄兵くんは?」
「龍せんせいに預けてある。今から、重要な話をするから。――何のことか、わかるでしょ?」
「はい……」
先生は私の向かい側に正座した。
「――今日、学校で見たアレ、は、どういうこと?」
先生は私の問いに真顔で答える。
「生徒のプライバシーに関わるから、理由は言えない。でも信じて欲しい。誓って、やましいことはしていない」
「誓うって、何に?」
――少しの、沈黙。
先生の真っ直ぐな視線が、私を射抜いた。
「……指輪と、君のご両親に」
「……っ」
思わず、胸元の指輪を握り締めた。
涙が次々湧いて出てくる。
先生が私を優しく抱きしめる。
手が重ねられて、導かれるままにゆっくり開くと、先生は指輪にキスをした。
私の両頬を包んで、おでこに、まぶたに口づける。その後、今度は強く抱きしめられた。
「僕は教師だから、この胸や腕を他の生徒のために使うこともある。
でも、僕の気持ちと唇は、君だけのものだよ」
「うん……」
――本当は、そんなの嫌だって言いたい。先生の全ては私だけのものだって言って欲しい。
でも。
そんな先生だから、好きになったんだ――。
先生の首に手を回して、ぎゅっと力を込めた。
途端に聞こえた「つっ」という声。
「先生?」
先生は痛そうな顔を苦笑に変えた。
「何でもありませんよ」
「何でもないわけないじゃんっ」
「あ、こらっ」
止めるのも聞かず、先生のシャツを無理矢理はだけさせた。
「何これ!?」
すると、先生の首周りにくっきりと残る痣が出てきた。
先生は苦笑を深める。
「実は、アパートには帰ってないかと思って、智之さんのマンションに寄りまして。で……」
「シメられたの!?」
「まあ、そうですね。『文乃がオレのところに来るような何をしたんだ』って」
いやー、オトされそうになるなんて何年ぶりですかねぇ、なんてのん気なこと言ってる。
「ご、ごめんね……」
「いえ、文乃さんを不安にさせてしまったのは事実ですし。それに、半分はヤキモチですよ」
「え?」
「智之さんの前で、文乃さんのことについてトモエさんと堂々と内緒話をしたのも同然ですから」
先生は悪戯っぽく笑う。
「さ、そろそろ鉄兵くんを迎えに行きましょう?」
先生が立ち上がって、手を差し伸べる。
私はその手をとって立ち上がった。
「うんっ」
「おー、来た来た」
龍せんせいの部屋のチャイムを押すと、鉄兵と2人で出迎えてくれた。
「ごめんねー、鉄兵。龍せんせいも、いつもごめんなさい」
鉄兵は先生に抱っこされながら、私と先生を交互に見る。
「ブンちゃとまーくん、なかなおり?」
「うん、仲直りしたよ。鉄兵くんにも心配かけちゃったね」
「よかったね。ケンカはめっよ」
「ハイ。気をつけます」
眉を吊り上げる鉄兵と、それに頭を下げる先生。
その様子をクスクス笑いながら見ている私に、龍先生が囁いた。
「ブンちゃん、まーくんの首のアレ……ちょっとやりすぎじゃない?」
「あっ、あたしじゃなーーーいっ!」
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